これから、食品の安全とはどういうことなのかをお話したいと思います。まず最初に、「安全」と対になっている言葉である「危険」について説明しておいたほうがいいと思います。日本語には危険を表す言葉は「危険」しかありませんが、英語には3種類あります。まず、英語の「danger」は危険そのものです。食品で言えば、針が入っている食品です。もうひとつは「hazard」です。これは危険(danger)の存在する状態を表します。食品で言えば細菌汚染された食品です。このふたつの危険は、食品ではあってはならない危険です。さて、最後の言葉は「risk」です。これは危険をもたらす可能性の程度を表します。たとえば道を歩いていてカラスのが落とした糞(danger)に当たるような状態(hazard)におちいる可能性(risk)です。これは電線の下を歩かないなど、気をつけたにしても、ゼロにはならないものです。

なるほど、よくわかりました。リスクという言葉は外来語としてもよく使われます。リスクがゼロでなくてはいけないというのなら、隕石(danger)が降ってくる(hazard)確率(risk)がゼロでなくては外も歩けなくなってしまいますよね。
そのとおりです。食品の場合にもいろいろなリスクがあります。ですので、完全に安全な(リスクのない)食品は存在しないという大前提があります。少し、極端な気もしますが、こういう意味です。たとえば、モモが好きな人がいて、モモさえあれば、ほかのものは何も要らないと言っていたとします。それでも、もし本当にその人がモモしか食べなかったらどうなるでしょうか?栄養失調になったり、いろいろな悪影響が出てきたりします。しかし、だからといってモモが安全な食品でないとは言いません。それは、常識というものがあって、常識的に考えて、そのような食べ方はしないので安全だというわけです。
ボクだって常識を守っています。いくら好物のスイカに目がないとは言っても、スイカばかり食べたりしません。ちゃんとピーマンもパセリも食べます。
そうそう、バランスの良い食事をすることが一番大切なのですよ。もう少し、違う話もしましょう。食品の成分についても、その安全を考える際には常識をもとにしているのです。たとえば、私たちの健康にはビタミンが欠かせませんが、ビタミンB1は実験動物のネズミに体重1キログラムあたり8.224グラム、ビタミンB2ではラットに体重1キログラムあたり10グラム以上食べさせると半数の実験動物が死んでしまいます。これは、しっかりと実験データとしてあるものです。
え、大丈夫でしょうか。ボクはビタミン食べていると思うのですが…。
大丈夫ですよ。これは体重50キログラムの人に単純にあてはめてみると、一度に500グラムも食べることになります。これも、常識で考えてこんな食べ方をする人はいないので、ビタミンを危険だとは言わないのです。
よかった。本当に常識を持って判断することが大事ですね。そのようなデータだけを説明もなく見せられたら、危ないって信じてしまいそうです。ビタミンも「食べてはいけない」になってしまいますよね。
このほかにも、食品の中には自然に、有害物質が含まれている場合があります。ジャガイモの芽にはソラニンと呼ばれる有害物質が含まれています。しかし、私たちは常識的に、芽が出ているジャガイモはその部分を切り取って食べるから大丈夫なのです。また、多くの野菜が、自然に、ごく微量の青酸を含んでいることが知られていますが、その有害性が、常識的な食生活で確認されなければ問題にしないのです。
そうなんですね。それでは遺伝子組み換え食品についてはどういうふうに考えればいいのでしょうか?
これらのことから、遺伝子組み換え食品を含めて、食品の安全性の評価は、現存の食品と比較して、安全性に問題がないかという視点から考えていきます。たとえば、ダイズなどでは消化不良を起こしたり、アレルギー反応を起こしたりするたんぱく質が存在していることが知られています。ですから、私たちは、そのようなたんぱく質ができる前に枝豆として食べたり、あるいは、煮豆のように調理してから食べたりするわけです。これらの、消化不良を起こす物質や、アレルギー源物質の量が変わっていないかを判断するのです。ですので、化学物質のように、危険性があるかないかを評価するというわけではなく、現存の農作物と比べて安全性に問題がないか、言い換えれば、同じくらいのリスクしか持っていないということを確認するのです。