食中毒を引き起こす菌について教えて下さい。
3)ウェルシュ菌
ウェルシュ菌も、やはりボツリヌス菌や破傷風菌と同じクロストリジウムの仲間で、酸素を嫌う嫌気性菌です。本当の(つまり学問上の)名前をクロストリジウム・パーフリンゲンスClostridium perfringens(perfringens = breaking throuth, 防御線を突破するの意味)と言います。以前はこの菌の発見者ウェルシュの名前をとって”ウェルシュ菌Clostridium welshii”と呼ばれていました。その後、学名変更があり現在の学名になりましたが一般的な呼び名としてその種名が残っています。また、ウェルシュ菌は「芽胞」と呼ばれる、栄養が周りにあまりない飢餓状態で形成される胞子を作ります。(実はウェルシュ菌は芽胞を形成しにくいのですが。)冷めたカレーなどの料理の鍋の中などの酸素のない状態でこの菌が増えて、何らかの拍子に胞子(芽胞)ができると、熱に安定な胞子は、その後、もう一度熱を加えて調理しても死にません。そのような胞子入りの料理を食べるとお腹(腸)の中で増え始めます。さて、お腹の中のたんぱく質などの栄養豊富な環境では、ウェルシュ菌はエンテロトキシンと呼ばれる毒素を作ります。そのために食中毒にかかってしまうのです。
さて、ウエルシュ菌は腸管の中で一旦増殖し、芽胞(胞子)を作ります。そしてその何割かが芽胞形成時にエンテロトキシンを、芽胞形成時の余剰産物として蓄積します。つまり、腸管の中で一旦増殖したウェルシュ菌の何割かが芽胞形成する時に放出するエンテロトキシンが悪さをすると思われます。
それでは、ところで胞子(芽胞)とはどのようにできるのでしょう?まず、胞子とはどのようなものなのか、イメージを作っておきましょう。胞子の特徴は植物の種を考えると良くわかると思います。私たちが目にする植物の多くは種を作ります。種の中にはクルミの様にとても硬い殻を持っているものもありますが、細菌の作る胞子も、やはり硬い殻を持っています。そしてその殻の中に、やがて芽を出すときに必要となる情報(遺伝子)と最低限の道具をしまって眠っているのです。さて、胞子を作る能力のある細菌が暮らしています。そこに、その細菌が「何だか周りの雰囲気が怪しくなってきたな。胞子を作ったほうがいいな。」と思うような刺激を感じると、胞子を作る仕掛けのスイッチが入るのです。そのような刺激は、温度の上昇であることもあるし、栄養源の欠乏であることもあるし、ある特定の物質の存在であることもあります。だから胞子の形成は守りの体制に入ることですね。胞子を作る仕掛けのスイッチが入ると、それまでの通常の生育に必要だった遺伝子を引っぱり出していた仕組みが壊されて、「胞子を作るために必要な遺伝子ですよ」という目印を持った遺伝子だけを引っぱり出す仕組みが作られるようになるのです。そのような遺伝子には硬い殻を作る遺伝子などがあります。すなわち、胞子はもとから菌体の一部としてあったものがポコッと出てきた(今、説明したとおり、材料を作り方の説明書は持っている)ものではありません。