たくさんの細胞からできている生物は、どのようにして細胞同志が連絡し合っているのですか?
大腸菌のように、一つの細胞でできている生物(単細胞生物)以外の生物は、その細胞が自由に生きていればいいですが、複数の細胞からできている生物では、それぞれの細胞がお互いに連絡を取り合ってばらばらにならないようにしなければなりません。人間のような複雑な生物では、神経を使って連絡を取り合ったり血管をめぐらせて、血液を使って栄養分を供給したりしています。ここでは、このような多細胞生物の中でも比較的単純な生物である粘菌(タマホコリカビ)の場合のコミュニケーション手段について説明します。
粘菌は、栄養分が豊富に存在するときにはアメーバ状の細胞として独立に生活しています。これは単細胞生物の場合と全く同じです。ところが、周囲の栄養分が不足してくると、他の単細胞生物のように単に休眠状態になるかわりに、お互いに身を寄せ合って集合体として危機を乗り越えようとします。それもただ身を寄せ合うばかりではなくなめくじ状の集合体を作って栄養分を求めて移動します。それでも栄養分が見つからないと、今度はなめくじ状の集合体が役割分担を始めます。なめくじ状になって進んでいるときに先端にあった細胞が柄になり、後ろにあった細胞が基礎になり、中間にあった細胞が胞子になります。このようにしてできた集合体は子実体と呼ばれます。この形が「タマホコリ」と呼ばれる理由です。胞子以外の細胞は死に、胞子は、また栄養分が得られるようになるまでじっと待っているのです。
このようにダイナミックに状況判断をして行動を起こすために、アメーバ状の細胞はどのようにして連絡を取り合って集まるのでしょうか。人間のように言葉がある訳ではありませんし、動物のように目があったりもしません。そこで粘菌はサイクリックAMPと呼ばれる化学物質を使うのです。このサイクリックAMPはサイクリック(環状の)AMPですが、 AMPのAはDNAの構成成分のヌクレオチドに出てくるA、すなわちアデニンです。英語でサイクリックはcyclicですが、その最初の文字のCをとってC-AMP、すなわちCAMP(キャンプ)というニックネームでも呼ばれます。それはさておき、栄養分が無くなると、アメーバ状の粘菌細胞はSOSシグナルのようにサイクリックAMPを出して、仲間の粘菌細胞を呼び寄せます。このシグナルを受け取ったアメーバ状細胞は他のアメーバ状細胞と結合しあうためのたんぱく質を細胞の外側に作り、細胞同志が接着するのです。
私たち人間を含む動物は、いろいろなホルモンや神経伝達物質などの物質、あるいは電気的な信号などの物理的手段を使って体中の細胞のコミュニケーションを行っていますが、その基本的な形は粘菌の持っているこのコミュニケーション手段です。
