なぜ微生物は抗生物質を作るのですか?
抗生物質は微生物が作る物質で、ほかの微生物を殺したり、生育を抑えたりする物質で、人類に役に立つ物質であることは、抗生物質とは?で説明しました。
さてそれでは、いったいなぜ微生物は抗生物質を生産しているのでしょうか。何も人間の役に立つ目的で生産しているわけではないでしょう。この問いに対する答えには諸説あります。その一つは、やはり生産菌も抗生物質の抗菌力を利用しているというものです。抗生物質を生産する微生物の多くは、カビや放線菌と呼ばれる微生物です。これらは、大腸菌や酵母のように単細胞の形態で生育するものと異なり、糸状の菌糸を伸ばして増殖していきます。そのため、栄養の豊富なところに流れていったり自分で泳いで行ったりして生育することができません。栄養の少ないところでも。じっくりと時間をかけて菌糸を伸ばして自分の領土を増やしていきます。自由に動き回れる微生物は、もし他の微生物が邪魔ならばそれから遠ざかれば良いのですが、菌糸を伸ばして生育する微生物はそうはいきません。自分の領土に入って来た微生物を取り除かなければならないのです。そこでそのような微生物が入って来ないように自分の領土に抗生物質をまいているというのです。
そこにひとつ問題があります。多剤耐性菌という言葉を聞いたことがあるかも知れませんが、これは、いくつもの抗生物質が効かなくなった細菌のことです。抗生物質の遣い過ぎが原因で出現したといわれていますが、このように微生物は自分に被害をおよぼす物質に対して抵抗性を獲得していくのです。これは、生物が身に付けている「進化する能力」のひとつです。周囲に出現した不利な環境(この場合は身に危険をおよぼす抗生物質の存在)に対して、それを克服する能力を獲得するのも、進化といえるでしょう。一方、抗生物質を生産している菌は、もちろんその物質に耐性を持っていなければなりません。例えば、ペニシリンの場合には、生産しているカビの細胞壁にはペニシリンがその合成を阻害する成分は含まれていません。