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VPbook

昭和48年〜平成9年(日装時代)

新聞の欠点を補う雑誌を目標に

VP(ヴィピィ)、日装が年に1回発行しているメンズファッション雑誌の名前である。写真ばかりで構成され、文章が1行も入っていない珍しい雑誌である。

かねてより写真を中心としたアダルト向けのスタイルブックを発行したいという意向を持っていた。しかし、名古屋に本社を置く、日本テーラーニュース社が、白黒を中心としたものだが、非常に美しい印刷のスタイルブックを発行していた。
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最新ファッションの写真を新聞紙上で紹介する場合、用紙の表面が粗いため、製版の網目も粗くしなければならない。せいぜい80線(1インチの中に80の網点があるもの)程度でないと写真がうまく印刷されない。

銀塩写真は連続階調で濃淡が表現されるが、新聞の写真の濃淡は小さい網点の密度で表現される。従って網点が細かいほど元の写真を忠実に再現できる。
最近、新聞の印刷方式が活版から平版(オフセット)印刷に変わってきたので、以前より細かいメッシュが使えるようになってきたが、洋服の柄行まではっきり表現できるまでには至っていない。。

紙面の平滑度の優れたアート紙を使うと、メッシュを150線以上の細かいものが使えるので、かなり微妙な柄行まで表現できる。
原理はコンピュータのディスプレーも同じである。ドットが荒いと写真を忠実に表現してくれない。普通のテレビと走査線の数が多いハイビジョンテレビを見比べているようなものだ。

話題性、ニュース性を重視する新聞と洋服のシルエット、デザインを見せようとする雑誌では、写真のコリティについては、同列で論議が交わせない。
しかし、同じソースの写真を使いながら、その再現にあまりにも差がありすぎると、ガッカリしてしまう。

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お洒落VIPを対象に、雑誌名をVP

いつぞやから、我が社でもテーラーニュース社に負けない美しい写真を多数掲載したスタイルブックを出版したい、との願望が芽生えてきた。
そのうちに、テーラーニュース社がスタイルブックの発行をやめるというニュースが伝わってきた。温めていたスタイルブック形式の雑誌の発行を真剣に考えることにした。もちろん先輩格の日本テーラーニュース社の了解をもらってのことである。

雑誌のサイズも従来の常識後破ったものにしようと、縦30センチ、横29.5センチのほぼ真四角のものにした。

はじめの頃は本棚に入れるとこの雑誌だけがはみ出てくる。洋服の写真は縦長のものが多いので、レイアウトが難しいという会社内外から、否定的な意見も出されたが、人のやらないことをして独自性を発揮しょうとすれば、どうしても乗り切らなくてはならない山が1つや2つは出てくる。

後に製本機械の都合で横のサイズだけ26.9センチに変わったが真四角に近いイメージは持ち続けている。

雑誌名前はVP(ヴィピィ)にした。本当のところはVIP(Very Important Person)のPersonをPhotographに置き換えてVIPとしたかった。つまりVIPといわれる社会的な地位の高い人のために、大変値打ちのある写真を掲載した雑誌であることをタイトルで表したかった。
しかし、VIPは既に商標登録がなされており使用できないのため、VP(ヴィピィ)とした。

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メンズファッション雑誌は倒産か廃刊

昭和48年に第1号を発刊することになったが、それに先立ちヨーロッパ、アメリカのメンズファッション雑誌の経営状態を調べてみた。残念なことにメンズファッション雑誌のほとんどは廃刊、あるいは倒産に追い込まれている。

アメリカのメンズウェア、イギリスのテーラー&カッター、イタリアのデルヘル、オランダのサー、など数多くの紳士向けのファッション雑誌が発刊を中止している。アメリカのエスクァイアのように男性総合雑誌として生き残りを計ったところもある。

ヤング向けのカジュアルを対象とした雑誌は、まだしも読者層が厚いので、生き残る方法もあるが、ビジネスマンが求める大人のファッションにターゲットを当てているところは、どこの国でも悪戦苦闘の末消えていく運命にあることが分かった。
新しい雑誌のスタートに当たってはまことに厳しい結果となった。しかし、幾つかの難関をクリアーすれば、世界に類のない雑誌が出来上がることも、事前調査で判明した。

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無料の写真収集が生き残り条件

男子服飾雑誌の出版社が成り立たないのは、メンズウェアはレディースと違って流行の変化が少ないのと、男性そのもののファッション意識が低いため、販売部数が伸びないのが大きな原因となっている。

その事実を知りながら、昔ながらの編集手法で経費を掛けすぎていた。出版社の経費を見ると編集費がかなりのウエイトを占めている。magazin
洋服のオリジナル写真を撮影するのを例に取ると、まず生地を探して買い求めなければならない。
これを裁断、裁縫をして洋服に仕立て上げる。仕立て代がかる。モデルの料金も売れっ子を使うとかなりの金額になる。

男だけでは絵にならないとすれば女性モデルも必要となる。カメラマン、ロケーションの費用、コーディネーター、スタイリストもと、数え上げていくと、さらに経費が嵩んでくる。何枚もの写真を用意するには驚くほど金額なる。

印刷以前に使う編集経費の削減こそメンズファッション雑誌の生き残る条件であるとの結論を得た。

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ヨーロッパの新作写真の入手に専念

ヨーロッパのデザイナー、クチュール、ブティック、アパレルメーカーでは、年に2回、春夏と秋冬の新しい作品を発表する。宣伝用の写真を写しているところも少なくない。この写真を入手し、使用すれば、洋服代もモデル代もカメラの費用も一切いらない。

資料収集のためのヨーロッパに出張する費用はかかるが、写真撮影の費用と比べると、大幅にコストダウンが計られる。

しかも、世界に名の知れたデザイナーやクチュールの最新作を載せることができる。
昭和47年にファッション資料を収集する拠点としてロンドンに駐在員事務所を開設、大和孝三を特派員にした。日本からの出張と合わせてヨーロッパで発表されたばかりの写真を集めるようにした。

春夏は1月末から2月にかけて、秋冬は8月末から9月にかけて、いずれも1年前に次の年に売りだすデザインが発表される。
シーズンが限られているので1日に4,5件のファッションショーが゛開かれることもあり、ときには同じ日時に2つのショーがバッティングして、二者択一をせまられることもある。

大きな展示会は、お互いに開催日時を調整しているようで、ドイツのケルンメッセが終わると、パリのセーム展、次はロンドンのインベックスというように順次開かれ、世界各国から取材にきたファッション・ジャーナリスとは、「ファッション・サーキット」と称して、これを追いかけていく。

大きな展示会にタイミングを合わせて個々のデザイナーやクチュールが主催するファッションショーも開かれる。

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一枚の写真からスタートして

新しいデザインの洋服をPRするために、一流モデルを使って写真が撮られる。印刷を目的にしているので、リバーサルフィルム(ポジ)を使うケースが多い。
この写真を入手して雑誌に掲載すれば、VPの編集経費が大幅に削減され、雑誌のコリティを上げられる。絶えず廃刊の危機にさらされている男性服飾雑誌の生き残り戦略の粗筋だ。

出版社側は費用をかけずに写真が手に入り、写真を提供したデザイナー、クチュールは無料で新しい作品のPRができる。
どちらもメリットがあるのでこのアイデアは成功するだろうとタカをくくっていた。ところが実際に写真資料の収集に乗り出すとそんなに甘ものではなかった。
最新モードがばっちり写っている多くの写真が目の前にあるのに、雑誌の趣旨を説明して協力を呼びかけると、1枚だけ差し出し、これを使ってほしいという。

こちらはそこにある写真を全部ほしいくらいの気持ちでいるに、なんたることだ。「せっかく遠くから来たのだからもっと多くの写真を・・・」と要求すると、しぶしぶ2、3枚追加してくれるといった具合だ。

ヨーロッパの人はこの3枚あまりの写真をどのように取り扱うのか、どんな編集の仕方をするのか、どんな性格の雑誌なのかを厳しい目で観察している。丁寧に扱うと次のシーズンは少し写真の提供枚数が増える。「石の上にも3年」という諺通り、3年もするとこちらが要求する枚数がすべてがOKとなる。5年目になると先方から、もう他にいらないと、声がかかるまでになった。
資料集めのは苦労は当初の3年ほどで、後は逓減制のように年々楽になっていった。

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移動の激しい「プレスアタッシェ」

名の知れたクチュールには「プレスアタッシェ」といわれる広報担当者がいる。ほとんどが女性だが、男性の場合もある。新聞、雑誌社の窓口になっているので、密接なコミュニケーションを取っておかなければならないが、専門職のためか移動が激しい。昨年はH社のプレスアタッシェとして活躍していた人が、今年はC社広報係になっていることも度々あった。

人違いではないかと怪訝な顔をしていると、「今年からC社に勤めを変えたのでよろしく」との挨拶。こんなことが日常茶飯事のように行われいるので、顔は知ってるが、どこの会社のプレスアタッシェなのか見当がつかないことが多い。

また、広報や写真撮影を外部の会社に依頼しているところもある。こんなときは本社には何の資料もないので、依頼先の住所を聞いてそこまで出かけなければならない。パリにしてもロンドンでも街の中心部の土地勘はある程度あっても、周辺部にはあまり出かけないので、地図で探してもなかなか所在地がみつからない。

ヨーロッパの地番は奇数がこちら側なら偶数は向側となっているので、ストリートの名と地番が分かれば、その場所にたどり着くのは簡単だが、ビルの中の事務所はオートロックになってるので、まずビルの入口を空けてもらい、更にオフィスのチャイムを鳴らして、ようやく本人に会うことができる。何処からは入っていいのやら見当がつかない。
チャイムに対して応答がなければ万事休す。

こんな苦労をして尋ねても、担当者がいないので分からない、連絡がないので渡せない、いま資料整理中なので改めて来て欲しい、などなどで用件が果たせない場合がある。
帰国の日が迫っていたりするとやきもきする。

「それでは資料をあとで送るから」と、親切にいってくれるケースもあるが、忙しさで忘れてしまうのか、面倒なので放っているのか、いつまで待っていても送ってこないことがある。

約束の守られる確率はドイツ95パーセント、イギリス90パーセント、フランスは80パーセント、イタリア50パーセント位だと思う。別に詳しくデータを取ったわけではないが、26年間この仕事を続けてきた上での「勘ピュータ」がはじき出した数字である。
こんな所にもお国柄が出ているように思われる。

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ファッションは進み過ぎず、遅れない

昭和48年8月の末にVP(ヴィピィ)第1号が完成した。9月から始まる秋冬物商戦に間に合わせるには、ぎりぎりのタイミングである。
表紙には創刊の前の年、昭和47年にヨーロッパへ行ったとき、イタリア・ビエラにあるE・ゼニア社の美しい庭園で行われたファッションショーで撮影した写真を使った。

イタリア人の男性モデルが洋服を着て日本の蛇の目傘をさしている傍らに、女性が寄り添って立っているという構図のものだが、女性モデルの化粧の仕方が日本とあまりにも違っていた。目の周りを濃色のマスカラーで縁取りしてあり、狸のような顔になっていた。

ヨーロッパでは当たり前の化粧だと思うが、日本では水商売の女性ならいざ知らず、ふつうの女性はあんな化粧をしない・・・・と、一流モデルもまるで娼婦扱いである。
あまり良い評判をもらうことができなかった。

しかし、2,3年すると日本にも同じような化粧をした女性が増え、そのような化粧に対する抵抗はなくなってきた。ファッションとはこんなものである。進みすぎても抵抗心に押し返されるし、遅れていると野暮となる。

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消費者にはテーラー経由で

VP(ヴィピィ)の編集方針もこの辺を狙いとした。進みすぎず遅れない。最初に見たときはこれは少々行き過ぎではないかと感じる程度の先取りで、2年ほどたってみるとなるほどと納得するような作品を主に紹介した。

中年のおじさんが若者のジーンズ姿を批判していたのに、何年か後には自らがそれを着用するようになる。これがファッションの魔力である。

VP(ヴィピィ)の一般書店での販売も試みたが、ファッションにこだわる中年以上の人は少なく、これらの人は仕事が忙しく書店でファッション雑誌をゆっくり探す機会も持ち合わせていない。世界のアダルト向けのメンズファッション雑誌が廃刊に追い込まれたのも、ここに一因があったわけで、消費者直売方式はあまりにもろロスが多いのでvp、方向を転換をはかった。

テーラーさんに10冊以上まとめて買ってもらい、お客さまの中でおしゃれに関心の高い人にプレゼントしてもらうギフト戦略を考えだした。
表紙に金箔で協力してくれたテーラーの名前を入れて宣伝になるようにした。この作戦はテーラーにも好評で、新しいファッションの情報をお届けすることにより、お客さまにも喜ばれ、注文も増えた。

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アダルト向きでは世界一豪華

本に手持ちの生地の小さな見本を張り付け、この生地で、写真のスタイルの洋服をお造りになっては、と、提案型のセールスの武器として使用し、手持ち在庫を一掃した店もある。

VPを手みやげとして持参し、ここしばらく注文をもらっていないスリーピング状態の古い顧客の掘り起こしに成功した例もあり、意外な雑誌の使い方もあるもだと、企画を提案したこちらが驚くほどの広がりを見せた。

VPの内容は中高年が着用する風格の高い洋服を中心とした写真で構成、ヤングが好んで着るカジュアルウェアやジーンズは避けるようにした。

洋服のディテールまでよく見えるように写真はできるだけ大きく扱い、カタログ方式の編集とした。当初は簡単な洋服の解説を入れていたが、写真を見れば一目瞭然、別段注釈がなくてもファッション傾向がわかるので、番号とブランドあるいは会社名、国別だけをクレジットとして入れるようにした。

文章がひとつも入らない雑誌は世界でも類がない。
最近アジア諸国へ輸出が増えたが、写真は世界共通のコミュニケーション媒体。
見れば分かるので、文字の入っている雑誌のように言語による障壁がない。国境を越えたというか、国境のない雑誌だといえよう。

ヤング向けのカジュアルウェアを対象としたファッション雑誌は数多く発刊されているが、大人の服装にこだわった編集の雑誌はあまりないので、「世界で一番豪華なアダルト向けのファッション雑誌」との評価をもらっている。

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