股袋Codpiece

「男」を大きく見せる手法の一つ

一部の男は別として、通常の男性なら自分を強く、逞しく見codpせたいとい
う欲求があるはずです。洋服にもそれが現れています。肩、腰、股間、ふくらはぎと、時代によって、場所は異なりますが、身につけるものに詰め物をして、「逞しく」見えるように工夫してきました。
肩の周辺にうんとこさ詰め物を入れ、肩幅を広く見せる手法は、現代人が着ている紳士服の肩綿にその名残を残しています。胸から腹へかけての強調は、毛芯に引き継がれています。
大切な男性器を保護したり、誇張の役割を果たしてきたCodpeace、日本語では股袋という名訳(迷訳)が付けられていますが、セックスシンボルという役割はネクタイに取って代わられました。しかし、目にははっきり映らない陰の存在ながら、技術的にはズボンの「金グセ」として、現代に生き残っています。
一般にはあまりなじみのないコッドーピースについての蘊蓄を傾けていきましょう。

脚線美が男のチャームポイントに

14世紀から17世紀のヨーロッパの男子が着ていた服は丈が短く身体にぴったりフィットしたダブレット(Doublet)でした。同じものをフランスではプールポワン(Pourpoint)、イタリアではファルセット(Farsetto)と呼んでいました。
ダブレットは鎧の下に着る刺し子の衣服を指すこともあります。双子、張り合わせの宝石もダブレットです。二重構造の素材がよく使われていたので、この名が付いたという人もいるようです。
下半身にはのちにブリーチズ(Breeches)と呼ばれるようになった、ホウズ(Hose)という半ズボンをはいていました。
靴下、靴を履き、マントを羽織ると立派な外出着となります。半ズボンなので自然と目線は脚に行きます。男はダンスや運動で脚の筋肉を鍛え脚線美を競いました。
当時の女性も男の脚線美には一方ならぬ関心を持ち、心をときめかしたということです。
どうしても筋肉の貧弱さがカバーできない人、あるいは、より男性的に見せたい人は、ストッキングに詰め物を入れて「逞しく」見えるように繕いました。

女性のガーターがガーター勲章になったのは・・・

ふくらはぎを中心とした脚線が如何に人々の関心を集めたかは、ガーター勲章の生い立ちを見れば判ります。ukmark
英王室紋章にはフランス語でHoni soit qui mal y pense(Evil be to him who evil thinks=思い邪なる者に災いあれ)と記されています。このモットーはアーサー王伝説の「円卓の騎士」にあこがれたエドワード3世(1312−1377)が、1348年に創設したヨーロッパ最古の騎士団が左足のふくらはぎに留めていたガーター勲章に同じ言葉が書かれています。
伝承によると、騎士団結成の1年前、1347年にカレーの占領を祝う祝宴で最初に披露された言葉だといわれています。
国王の女教師、ソールズベリー伯爵夫人がダンスの最中にガーター(靴下止め)を落としてしまいました。恥じ入る夫人を取り囲み、周りの廷臣たちがひやかすのを見ていたエドワード3世はさっと拾い上げ、自分のひざの下に青いガーターを付けて、出席者にレディに対する誹謗を注意する代わりにこのモットーを口にして、「ガーターは間もなく最高の尊敬を得ることになるだろう」と言葉をつなぎました。

映画、運動の最高位にはブルーリボン賞

騎士道精神あふれるエピソードよって生まれた、イギリスのナイトに与えられる最高の名誉・ガーター勲章は、その色からブルーリボンと呼ばれるようになりました。
その後、映画の最優秀作品や運動競技の最高位に与えられる賞まで「ブルーリボン賞」という名称が使われるようになりましたが、これらは「ガーター勲章」に習ったものです。
女性の靴下止め(ガーター)が各界の最高栄誉を称える賞になった経緯は以上の通りですが、何故、左の膝下に付けたのでしょうか。靴下止めに由来することもありますが、中世から1789年のフランス革命が起こるまでの、4、5百年もの間は、脚のふくらはぎを中心とした脚線の美しさが男性のチャームポイントとされており、当時の男女が一番先に視線をやる場所だったからです。

肩も股間も誇張したヘンリー8世

男性を雄々しく見せるために詰め物をしたのは、脚だけではありません。英国王ヘンリー8世(1491〜1547)はコートの肩の周辺に、これ以上は詰められないほどの詰め物を入れ、肩幅を広く見せ、怒り肩にして威厳を保ったといわれています。
ヘンリー8世は精力が絶倫で6人もの妻を持った王として知られています。長いイギリス王室の歴史の中でも例を見ない艶福記録の保持者です。英国では王侯・貴族条件の一つとして背の高いことがあげられていますが、身長も歴代の王の中では、最も大きかったようです。
身長ばかりではなく、6人の女性を満足させたソレも偉大なもであったらしく、観光名所の一つ、ロンドン塔に保管されいるヘンリー8世の鎧のコッドピースのふくらみの大きさは観光客の驚嘆と羨望の的になっています。

から始まるコッドピースの歴史

紳士服の源流を求めると13世紀の鎧(Armour)にたどり着きます。男性美の極致ともいわれている金属製の鎧は股間にコッドピース(股袋)が取り付けられていました。
男の大切なゴールデンボールとバットを収納するためのものでした。素材が金属から布(麻→木綿→ウール)に変わっても、コッドピースは生き残り、一物(逸物?)を収納するという本来の機能はいつの間にか無くなってしまいましたが、男性らしさを誇張する道具に使われたり、装飾的な要素が表面に出たり、小物入れに変身したりしました。
15、16世紀には男の願望をもろに表現したコッドピースが、大流行しました。17世紀には姿を消したかのように思えましたが、セックスシンボルとしての役割はネクタイに引き継ぎ、その機能はズボンの「金グセ」としていまに残っております。

誇張の歴史は肩綿、芯地、金グセに名残

我々が着ている現代の背広にも、目には見えないところに、いろいろな詰めものが施されています。ヘンリー8世が好んだという肩の誇張は肩綿に名残を留めています。なで肩は女性的で、弱々しく見えるので、肩にパッドを入れ、男らしく、しかも、美しい肩線を保てるように工夫されています。
肩線と同様に胸からウエストに至る微妙な曲線は、中世の女性を魅了した鎧のラインをそのまま受け継いでいます。
伝統的な紳士服の製造工程では芯作りを大切にするのは、このを男性的なラインを再現するためのものです。接着剤の付いた不織布を高温、高圧のプレス機で、表地にそのまま接着してしまう簡便な方法もありますが、高級注文洋服では、アルパカなどの張りのある繊維で作られた毛芯にフエルトを重ね、さらに八刺し(はざし)という技法で2枚の布を縫い合わせます。縫い糸が「ハ」の字に見えることから名付けられた技術ですが、手慣れた職人さんでも約1時間掛かります。
芯作りは建設に例えるなら基礎工事に当たります。基礎ができてないと、立派な建物は建てられません。表地に付くでなし、離れるでなし、ピッタリ寄り添うように取り付けます。昔は「ばす」と呼ばれる独特の張りがある馬の尻尾の毛が用いられましたが、縫い目から毛が抜け出すことがあり、いつの間にか使われなくなりました。

だます、かつぐ、からかう、ナンセンス?

さて、鎧に始まり2世紀以上に亘り男の股間を飾ってきたコッドピース(股袋)は、あるときは一物を入れる機能的なものとして、あるいは、男性そのものを誇張する手段として、単なる装飾として、便利な小物に入れとして、時代に応じて、機能や形を変えながら、存在してきたことは、前に紹介したとおりです。
Codpieceは股袋と訳されてますが、ペニスそのものを指す言葉でもあります。英語の辞書で、「Cod」を引いてみると、魚のタラとあります。英国の俗語では、だます、かつぐ、からかう、冗談、ナンセンスのことだと書かれています。
「タラ」とは形、語の意味、共に関係がないように思えます。むしろ、後者のだます、かつぐ、からかう、冗談、ナンセンスという訳がピッタリのように思われれます。
女性が「寄せて」「持ち上げて」胸の谷間を深く見せるブラジャーを愛用しているように昔の男はコッドピースにうつつを抜かしたのです。

洋服の丈が短くなり、股間に関心が・・・

コッドピースの流行は上に羽織るコートの丈に密接な関係を持っています。1340年代から1360年代までに洋服の丈は脚を長く見せるために、かなり短くなりました。教会関係者はこの流行に批判的でした。
1347年に黒死病がヨーロッパを襲った時、教会はこれは丈の短い洋服を着て股間をあらわにしたことに対する、神のたたりだと公言しましたが、人々はこれを受け入れず、コートはより短くなり続けました。
洋服の丈が短くなると、必然的にに股間が目立つようになります。視線の集まるところを飾って自己の存在や個性を主張したくるのはに人間の本性です。
はじめに丈の短い洋服を着たのは、農業に従事する作男と労働者階級でした。彼らにとっては長い丈の洋服は作業の邪魔になるからです。この大衆ファッションが、王侯、貴族などの上層階層に影響を及ぼしました。

陸軍「睾丸は左方に容るるを可とする」

コッドピースのセックスシンボルとしての役割はネクタイに譲ってしまい、17世紀には完全に姿を消してしまったかのようにいわれていますが、機能面では現在の紳士ズボンにその痕跡を残しています。
『男のたしなみ』の著者として知られている板坂元氏は、『昔の帝国陸軍の「被服手入保存法」に「睾丸は左方に容るるを可とする」という文があった。つまり、ズボンを着用するとき、いわゆる「左マラ」になるようにと教えていたわけだ。もっとも、日本人は「左マラ」の確率が圧倒的に高いので、陸軍はそれに合わせて軍服を量産していた。現代の既製服もその確率に合わせて「左マラ」のズボンを量産しているはずだ。』と著しています。
マラ(魔羅)と言うと語の響きからして弓削道鏡を思わせますが、仏教用語で仏道修行を妨げ、人の心を惑わす魔王の名からきています。転じて僧侶が使う隠語として「陰茎」を現すようになりました。
更に威勢の良い言葉が好きな軍隊用語として引き継がれました。

「右利き」の人の睾丸は「左下がり」

私達の青春時代に女性の間で「ドッチボール」という少しHな遊びが流行ったことがあります。次にこちらを向いて歩いてくる男性の大切なものが、ズボンの左右どちらに入っているかを当てっこする遊びです。左といえば正解になる確率が高いので、直ぐに廃ってしまいました。
一見すると、人間の体は左右対称にできているように見えますが、左右どちらかの肩が上がっていたり、手の長さ違っていたりします。
睾丸も左右に1個ずつボールが並んでぶら下がっているようですが、よく観察してみると左が少し下に下がり、右の玉は少し上に上がっていることが判ります。

左脳の発達が「右利き」人間を作る

男性の場合、数字を扱い、合理的な考え方を支配する「左脳」が発達しているため、右側の筋肉が良く発達し、右利きとなります。睾丸をつり上げる筋肉も右が優位になるため、右の金玉がつり上げられます。同じ理屈で左利きの人は左の玉が上にきているはずです。
ところで、このゴールデンボールは少しものに当たっても、のたうち回るほどの痛みを感じます。それは本来、内蔵として腹の中に入っているものが、子孫繁栄を大義名分として体の外へ出てきたためです。ここにものが当たると内蔵を直接叩かれたような激しい痛みが走るということです。玉を左右段違いにしているのは、辛抱できない痛みから身を守るための神の配慮といえるかも知れません。
推定的な数字ですが、男性の92%から96%は右利きだと言われています。

「ボール」も「バット」左よりを前提にズボン作り

ボールだけではなく、バットの方も真っ直ぐ前に突き出ているのは滅多にお目にかかれません。こんな素直なバットの持ち主なら、「珍宝」として、これからも曲がらないように充分注意をして、大切に保管されるようにお奨めいたします。何しろ、年期を経ると色も黒ずみ、シミができ、変な癖が形に現れてきますので。
小さく縮こまっているときには、曲がりも余り目立ちませんが、怒張してくると見事にカーブしていることが判ります。
左玉が下がっていると、バットも左へ曲がり、玉が右下がりだと、バットも右曲がりになっています。もちろん、例外もあります。こんなのを『へそ曲がり』ではなく『○○曲がり』というのでしょうか。
圧倒的に左下がり、左曲がりが多いので、軍服や既製服は生地を裁断する段階で、左に少し余裕を持たせています。穿き心地の良いズボンを作るために大切なことです。
ワープロの「センターリング」のように、ボタンをポンと押して、まん中に置いたり、左右均等に振り分けるという器用なことは縫い目が邪魔になって出来ません。「左揃え」か、「右揃え」でなければなりません。
既製服は最大公約数に従って生産されますので、左利きの人はどうにも落ち着きの悪い、穿き心地の良くないズボンを強いられることになります。

注文洋服の秘密兵器、裁断とアイロンで「金グセ

注文洋服はひとりひとりの顧客に対応した工程で洋服作りがなされているため、右利き、左利きを問いません。「左、右どちらにお入れですか」と、ズバリ質問をするわけには行かなので、採寸や仮縫いの時に、テーラーはさりげなく、どちらに入れているか、大きさはどんなものかと観察し、対処します。裁断の段階で加減するのはもちろんアイロン操作も加えて、ズボンを穿いた時にボールとバットがうまく収まり、違和感を感じないよう工夫がなされております。
この技術を職人言葉で「金グセ」といいます。一般にお金を借りて返さな人、どこかの国の高級官僚のように、他人のお金と自分のお金の区別がつかない人を「かねぐせ」の悪い人だといいますが、洋服業界では「きんぐせ」と読みます。金玉を収めるための「癖取り」を省略したものです。
今は隠れた存在となっていますが、男が昔のコッドピースのようにその大きさ、派手さを競う時代が再びやってくるのでしょうか。ここ数十年は女性上位の時代が続きます。次に男性優位の時代がやってきたときは?必ずしも否定できません。歴史は繰り返すといいます。
女性が脇の肉まで前に集めでオッパイを大きく見せることは、現在では何の抵抗もなく、受け入れられていますが、僅か10年前では考えられなかったことですから。



A Briefe History of the Codpiece(英文・コッドピースの歴史)
http://www.onr.com/user/steveh/cods.htm


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