繊維の宝石」(The Kings of Natural Fiber)

稀少価値の高い獣毛、コート、ジャケットに

『繊維の宝石』だれが言い始めたのか判りませんが、消費意欲をそそる上mohair
な表現です。宝石といわれるからには
1.稀少価値がある。 2.上品な光沢がある。 3.身に付ける人に優越感を与える。 4.センス良さが感じられる。
などの条件を満たしながら、細く、柔らかく、軽く、糸に紡ぎやすい特性を併せ持たなければなりません。
繊維の宝石は獣毛繊維の中から見付けることができます。ここでは、ビキューナ(Vicuna)、カシミヤ(Cashmere) を中心に、価値ある服地素材の数々を紹介いたします。
放置しておくと絶滅の恐れがある稀少価値の高い動物は、ワシントン条約で保護の対象となっていますので、いくらお金を積んでも、身に着けることができなくなるかも知れません。

ビキューナ=Vicuna》 最も細い繊維はアンデス育ち

標高4千米以上の厳しい気候に耐えて
ビキューナは南アメリカのペルー、チリ、アルゼンチン、ボリビアにまたがるアンデス山脈の標高4,000メートルという高地だけに棲んでいます。アルパカ、ラマ、グアナコなどのラクダ科の動物の中では一番小さく、地面から背までの高さは約85センチ〜95センチ、体重35キロ〜45キロです。
ビキューナの生息している地域は雨がほとんど降らず、植物も育ちにくいほど乾燥しています。夏でも平均気温は8度を超えることがありません。冬はもちろん氷点下になり、冷たい風が吹きまくる極寒の地となります。
厳しい寒さから身を守るためにビキューナは細くて柔らかい毛で覆われています。この神の恵みを人間様が頂こうというのですから、かなり多めの冥加料を払わなくてはなりません。。
毛の太さは12〜13ミクロンと天然繊維の中では一番細く、赤ちゃんの産毛にふれているような手触りと、優れた保温性を持っていることから「繊維の宝石」といわれています。

密猟で一時絶滅の危機に
vicuna当初は野生のビキューナを捕まえて、手で産毛をむしりとって再び山に放つという原始的な採毛方法を取り入れていたようですが、効率が悪いためにビキューナを密猟、殺害して毛を取る不法者が横行し、1970年の後半には絶滅の危機に襲われました。
幸いなことに、ペルーを中心とした周辺諸国のワシントン条約を後ろ盾とした手厚い保護政策により、数年後には頭数も増え始めました。
現在も厳重な管理下で密猟を防止したり、天候異変などの災害に遭わないように監視が続けられています。
野生動物の扱いに手慣れたアンデス原住民により、牧場に追い込まれたビキューナは、毛を刈り取られますが、この儀式は2年に1回しか行われません。

超高品質、稀少価値。600万円のコート
1頭から取れる毛は250グラム以下です。熟練した職人が、この中から夾雑物、太い外毛などを取り除き、デリケートな繊維だけを残します。年間生産量は総てをオーバーコート地の生産に当てたとして350着分。ジャケットでは700着分弱となります。僅かなものが世界各国に散らばるのですから、稀少価値は弥が上にも上がります。
ある洋服店ではビキューナのコートに600万円という値札が付いていました。採毛からコートの仕立て上がりまで、人間国宝クラスの職人が何人もかかわっています。
世界中を探しても着ている人を見付けるのは困難という稀少価値、天の贈り物である細く、軽く、暖かい繊維特性と選ばれた職人(アルチザン)の技を身につける代償が600万円ということです。

カシミヤ=Cashmere》 身近な高級品、「繊維の女王」

原産はインドのカシミール地方
カシミヤは独特の光沢と柔らかい肌触り、優れた保温性が特徴で、長い歴史の中で常に最高峰の地位を確保してきました。「繊維の女王」という名誉のある別名を持っています。
「カシミヤ」の呼称は、インド北西部の高山地帯「カシミール地方」に棲息するカシミヤ山羊に由来します。
この地方に産出する山羊の毛で織り上げた肩掛けが、18世紀に大流行して多くの人にカシミヤの優れた性質が理解されるようになりました。
ついで防寒用下着、セーター、そしてコート地、ジャケット地、背広地と用途を広げてきました。cashmere
現在ではカシミヤ山羊はチベット、モンゴル、中国、イラン、イラク、ロシアなどの乾燥した寒冷山岳地帯で飼育されていますが、消費生活の高級化で需要の伸びに供給体制がついていかない状態で、原毛価格は値上がり傾向にあります。
中国などは原毛で輸出をせず、付加価値の高い織物にして外貨を稼ごうという方向に向かっており、原毛事情は一層厳しいものになりそうです。

独自の光沢、柔らかい肌触りは山羊の産毛で
カシミヤ山羊は厳しい気候条件を生き抜くために、外側の太い「刺毛」と内側の細く繊細な「産毛」が共生しています。
夏を迎える準備として毎年春の終わりに脱毛期を迎えます。この時に櫛のようなもので産毛を梳き取ります。これがカシミヤの原料になるのです。暖かく、ヌメリ感のある原毛は、細く繊細で毛の直径は15ミクロンといわれています。
1頭当たりの、採毛量は250グラムと少なく、カシミヤのコート地を1着分作るのに、30頭ものカシミヤの毛が必要とされています。
同じようにカシミヤと呼んでも、ブラウン、グレー、ホワイトの3色があり、原毛段階で厳密に区分されております。一番値段の高いのはどんな色にも染めることができるホワイトカシミヤです。

同じ原毛でも染色方法で品質に差が
カシミヤのような高級品はきれいに洗われた原毛の状態のときに染色をするトップダイが常識となっていますが、最近は製造コストを少しでも下げるために、糸に紡いでから染めるヤーンダイ(糸染)、織物に織りあがってから染めるピースダイ(製品染=反物をピースと呼びます)を採用しているところもあるようです。
早い工程で染色すると当初に計画した布地しか織れません。事情があって生産計画を変更する必要が生じると、また原料段階からやり直しとなり、リスクが大きくなります。
織物に仕上がってから染めるのなら、市場の様子を見てから売れそうな色に染めて、マーケットの要求に即応することができます。
染色方法の違いは、なんとなく色に深みがない、格調に欠ける、光沢が少ない、などその筋のプロには判りますが、素人にはなかなか見分けられません。相場より大幅に安い商品で、カシミヤを名乗っているものがあれば注意が必要です。

注目を集めるモンゴルと中国
中国のホワイトカシミヤは品質が良く、世界最高水準のものと高い評価を受けております。最近ではモンゴル産のカシミヤにも、熱い視線が寄せられています。標高1300メートルのモンゴル高原は夜と昼の温度差が高く、冬の夜はマイナス50度以下にもなるために、テントの中で飼育しているところもあります。
この温度差、厳しい天候に耐えて生き抜くために、造化の神は、暖かく身を包むカシミヤを与えてくださいました。
世界各地でカシミヤ山羊は飼育されていますが、モンゴルほどの高地で飼っているところはないでしょう。

100%カシミヤはデリケートすぎて
コート地、ジャケット地、どちらにしても100%カシミヤ使いが、最高級品とされています。ロンドンの有名なウールンマーチャントが、カシミヤを100%使ったジャケット地の新製品発表会で、「大きな声では言えないが、この感触は処女の内股をなでているようなもの」と説明していました。いろいろな言葉を探したのでしょうが、これ以外に表現する言葉が見つからなかったのではないかと思われます。それほどに上質のカシミヤは肌触りが良いのです。
あまりにも繊細な原料のために、あとでクレームがつくのを恐れて、あるテーラーでは65歳以下のお客様には100%カシミヤを勧めないようにしいます。行動派の人が着ると毛玉になったり、型くずれを起こすこともあるからです。もちろん、押し合いへしあいの通勤電車には着ては乗れません。
実用的で人とは少し違ったお洒落を楽しむなら50%、あるいは70%程度のカシミヤを使った服地を選ぶのが無難です。
年輩者でカシミヤのコートやジャケットを着ようという人は、ほとんどが「重い洋服はお断り」だといいます。通勤にも専用車が迎えに来るし、行動も落ち着いているので、繊細なカシミヤを傷めることはないでしょう。
高価な買い物で、財布の中身が目減りして寒くなりますが、服地の軽さと暖かさは、それを補って余りがあります。
この混紡にも注意が必要です。カシミヤ100%と表示しながら、カシミヤと風合いの似たラムウール(仔羊の毛)を入れたインチキ品がときおり市場に出回っていきます。

スーツ用の梳毛カシミヤもお目見え
カシミヤはコート、ジャケット専用の原料ではありません。一昔前まではカシミヤのような比較的短い繊維は紡毛にしかできなかったのですが、原毛の改良と紡績、織布技術の進歩により、カシミヤも梳毛糸に紡ぐことができるようになり、背広、スーツの分野でも高級原料として注目されるようになってきました。

キッドモヘア=Kid Mohair》 優雅な光沢が魅力

サラリとした感触。日本の夏(高温・多湿)に最適
キッドモヘアはビキューナ、カシミヤなどに比較して値段も安く、稀少原料というほどのことはありません。「繊維の宝石」の仲間に入れるかどうかを迷いましたが、夏物紳士服地のエース格という存在に敬意を払い、入閣を認めることにしました。
モヘアはアンゴラ山羊から採られる獣毛繊維です。獣毛の中では一番優れた光沢を持つシャギー調のこの原料はセーターや婦人のコート用としてよく用いられます。モヘアという言葉はトルコ語で「最高の毛」を意味する「マクヒア」に由来を求めることが出来ます。
モヘアの歴史は古く、紀元前15世紀にはモーゼが神のお告げで、モヘアで織り上げた布を祭壇の装飾に使ったという記録が残っております。

アンゴラ、トルコから南ア、米・テキサスへ
もともとアンゴラ山羊はチベットやヒマラヤの高地に生息していましたが、数千年前に遊牧民によりトルコへ運ばれました。18世紀の中頃まではトルコがアンゴラ山羊を独占して飼育、品質の改良に努めてきました。
現在はトルコの後で飼育に乗り出した南アフリカが総需要の45%を出荷、世界一の産地となっています。2位の産毛国はアメリカです。テキサス州の牧場でアンゴラ山羊が飼育されています。

感触、光沢、清涼感、珍重される仔山羊の毛(キッド)
キッドモヘアは生後3カ月までの仔山羊から採れる毛で、独特の光沢とさらりとした感触を持っています。成長した山羊から採るアダルトと比較しますと、キッドは3倍以上もの高値でangorafujiiす。それでもアダルトは余り気味、キッドは不足がちという結果になっております。
南アのキッドモヘアは繊維が長く、優雅な光沢を持つ白色の極細品種です。
25〜27ミクロンのキッドモヘアは1000万キロといわれている世界のモヘア生産量の8%しか採れない稀少品種です。
モヘアの故郷であるトルコも負けていません。光沢の優れたモヘアはこちらと巻き返しを計っています。

シワになりにくい高級夏服地
キッドモヘアは湿度の多い日本の夏にはうってつけの素材です。独特の艶、風合、ハリ、コシ、中でもサラリとした感触が好評で、高級注文洋服素材としてよく使われております。座敷に座る機会が何かと多い日本ではモヘアの持つシワになりにくい、天然の復元力の強さは、着る人々に大きなメリットとなっています。
時折、キッドモヘア100%服地・・・といった表現を見る事がありますが、これは明らかな間違いかインチキです。通常縦糸に毛糸を使い横糸にモヘアを打ち込んでいます。
横糸に100%のモヘアを使っても、全体の55%にしかなりません。
それでは、縦糸も横糸もモヘアにすればいいじゃないかと、いうことになりますが、モヘアはつるつるしていて滑りやすく、織物にしたときにスリップという現象をを起こします。

100年前の機械も稼働、英国のブラッドフォード
キッドモヘアの生産国としては、イギリス、イタリア、日本などが挙げられます。イギリスの梳毛織物の産地としては、ブラッドフォード、ハダースフィルドの2つが挙げられます。前者は値段のこなれた実用的な毛織物を生産するのに対して、後者は注文洋服向きの高級品を生産しています。
しかし、どういう訳かモヘア服地に関しては、高級品も一般品もすべてブラッドフォードで作られます。
モヘア糸はフライヤーという昔ながらの紡績機で紡ぐと光沢の優れたものになるといわれています。
100年以上も前に開発された機械で、回転スピードは遅く、効率が悪いのが原因で、他の産地では廃棄処分にしてしまいました。その機械がここでは入念に手入れされ稼働しいているのです。
キッドモヘアで夏服をお誂えになるとき、まず、原毛の産地を尋ねてみましょう、織物の産地も確認しましょう。イギリスのモヘアに対してイタリア製のものは、紡績方法の違いで若干光沢が少なくなっています。
英語のKidは「仔羊」と言う意味の他に「だます」という解釈もあります。キッドの混紡率も値段を左右する大きな要素です。くれぐれも騙されないように!

《参考資料》稀少性で注目される獣毛繊維

グアナコ(Guanaco)guanaco
ペルー原産、ラクダ属ラクダ科の動物で現在はアルゼンチンに野生の状態で棲息しています。チリ、ペルーにも乱獲で数は減っていますが、棲息しています。毎日2メートルは動いている氷河・ペリトモレノ、時に10階建てのビルに匹敵する氷壁が崩れ落ちる大スペクタクル。果てしなく続くバタゴニアの原野を駆け抜けるグアナコ。
絵になりそうな風景を想像しますが、夜と昼との温度差が激しく、動物の生存には良い環境とはいえません。
体長約2メートル、体高1メートル、体重70キロ、毛の長さは25センチ、粗くて固い剛毛と18〜24ミクロンの綿毛が混生しています。衣料用には綿毛を使います。

アルパカ(Alpaca)alpacafujii
南米ペルーの中部から南部、ポリビアの海抜3,500メートル以上の高地に生息するアルパカはウールとヘアーの両方の特性を持っています。手触りは滑らかですが、丈夫で、絹のような光沢を持っています。
若い間は23ミクロン程度ですが、年齢とともに毛は太くなります。年に1回採毛される毛は4〜8センチの長さで、1頭当たり1.5〜1.8キログラムです。

キャメル(Camel)

文字通りラクダの毛です。ラクダにはアラビア、アフリカなどで見られるひとこぶラクダ(単峰camelfujii種)と、中国、モンゴル.チベット、イランなど中央アジアの砂漠地帯に生息する2つのこぶを持つ双峰種の2種類があります。
単峰種は毛が短かく太いので利用されません。2つのこぶを持つラクダは太さが15ミクロン〜24ミクロン、長さが25〜130ミリメートルの細くて柔らかい柔毛と、これより太くて長い剛毛に覆われています。
年に1度、晩春の脱毛期に落ちた毛を採集します。剛毛(Hair)は捨て、柔毛(Wool)だけを拾い集めて利用します。



藤井毛織の新動物図鑑
http://www.fujiikeori.co.jp/f_fea_03.html


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