ペイズリー(Paisley)

カシミール生まれ、英国育ちの神秘柄

石榴(ざくろ)、松かさをモチーフにしたインド神秘主義のシンボルとされる基paisely
本柄です。「勾玉模様」「渦巻模様」、口の悪い人は「子宮模様」「なまこ模様」などと呼んでいるようです。
イタリアのエトロが、ハンドバッグ、ネクタイ、ショール、マフラーなどに好んで使っている例の柄という方がわかり易いかも知れません。
ペイズリーはカシミール模様ともいいますが、スコットランド南西部の地名でもあります。カシミールはインド北部にあるカシミヤの故郷として知られるところです。
どうして遠く離れた二つの土地が、一つの柄の名前として登場してくるのでしょう。生まれはカシミール、育ちは英国のペイズリーが、その答えです。気味悪そうで、心惹かれるこの柄の歴史を調べてみましょう。

エスニック調、イタリア「エトロ」が普及に一役

ペイズリーは一柄に5色以上の色が使われていますが、派手さを感じさせません。というよりも深みがあり、落ち着いた雰囲気を醸し出しているところに、魅力を感じる人が多いようです。ことにヨーロッパの人々は自分達の文化と異質のエスニック調に強く惹かれるようです。
イタリア・ブランドの「エトロ」の創始者ジンモ・エトロもその内の一人でした。彼は建築家を目指していました
が、義父の事業を継ぐために、テキスタイルの生産に力を注ぎました。彼の夢は幼い頃、祖母が肩に掛けていたショールの美しい模様を自分の手で再現することでした。
それはインドのカシミール・ショールでした。カシミール模様は15世紀ごろインドのカシミール地方の
ブータ」という手織のショールに採用されていた植物模様がルーツだといわれています。ブータは手の込んだ作りのために、一枚を織り上げるために3年もかかったといいます。
稀少性を利用してカシミールのアクバル大帝が生産されたショールを独占、王侯、貴族への贈答品として活用しました。この狙いは見事に当たり、上流階級の人々に重宝されるようになりました。

灌木に付いたカシミヤ山羊の毛を集めて

カシミールでのショールの歴史は11世紀まで遡れるといいますが、生産が盛んになったのは、14、
15世紀に入ってからです。広大な中央のアジアの大草原に居住していたMughals人が1586年にカシミールを征服しました。彼らの支配下で芸術が開花しました。ショール産業も成長しました。織り手は東トルキスタンから連れてこられました。
ショールは、綾織タペストリーの技術を応用して織られました。縦糸の間に自然に着色された横糸を1本1本手で丁寧に差し込んで柄を作り上げていきます。原料はカシミヤ山羊の毛です。山羊が棲息する標高14,750 フィートのヒマラヤ山脈の地域は、冬季の冷え込みが強く、寒さに耐えるために堅い毛の下にふわふわした柔らかい毛が生えます。
この産毛は春になり気温が上昇してくると、不用になるので、山羊は灌木に身をすり寄せて毛を抜いていくのです。木に付いている僅かな毛を拾い集めて、織り上げたショールは肌触りが良く、抜群の保温性を誇っています。しかし、原毛集めから、紡績、織りに至るまで総て人手に頼るため、値段は庶民の手の届かないものになります。

各国でカシミールショールのコピー品を生産

現在ペイズリーと呼ばれている勾玉模様は松笠をモチーフにしたものだといわれていますが、古代のバビロンでナツメヤシの成長している姿をを表わすために、シンボルとして使用された「命の木」がソースいう説もあります。
また、涙の滴形(Teardrop) の形のパターンは約2000年も前にケルトの芸術として英本国で知られていましたが, ローマ帝国の支配によりヨーロッパでは姿が見られなくなりました。インドでは対照的に活気づき、カシミール特産のショールの柄として使用されたのです。カシミールのショールは東インド会社(East India Company) のメンバーによってヨーロッパに持って来られて販売され、非常人気を呼びましたが、値段の高いことが難点とさていました。
ショールは1790から1870までのほぼ100年間、多くの国で流行したため、世界各地で生産されるようになりました。、カシミール、ペルシア、インド、ロシア、アメリカ、フランス(パリとライアン)、オーストリア(ウィーン)、スコットランドのエディンバラ、もちろん、英国のノリッジ、グラスゴーおよびペーズリーでも生産されましたが、色柄、品質、暖かさ、肌触りの良さ、軽さ、風合いなどあらゆる点でカシミール製が群を抜いていましたが、本物の10分の1といわれる値段の安さで、ヘイズリー製のショールもよく売れるようになってきました。

3番手のペイズリーがナンバーワンに躍進

ヨーロッパのショール市場が大きな広がりを見せるだろうと見て取った英国ではいち早くショールを手掛けるようになりました。1790年にはエディンバラで、1792年にはノリッジで、それぞれ手動織機を使って始められました。
後に曲玉模様の本家の座を獲得したペーズリーは少し遅れて、1805年に開始したと記録にあります。後発ながらペーズリーは、1812年に5つの異なる色糸が使用出来る器具を開発して手織機に付けることにより、能率を向上させ、安いショールの供給が出来る態勢が整い、有利な立場を築きました。。
その頃の英国では強い羊毛糸が開発されておらず、縦糸には綿糸(高級品は絹)を使い、横糸だけに羊毛を使っていたため、重く、風合いもさほど良いものではなかったといいます。
ちなみにオールウールのショールが初めてペイズリーで作られたのは1823年のことです。

ジャカード紋織機の導入で工場制大量生産に

羊毛工業といっても当時のペイズリーは織り手が自分の織機を所有して織る家内工業でした。平屋に1台から4台の織機を置き、製品を保管する倉庫と、住まいに必要な部屋やベッドルームを備えている簡素なものでした。出来上がった製品はロンドンからやってきた商人が値踏みをして買い上げてくれます。彼らは原料を供給したり、必要な資金を融資するなどで、次第に産元の殺生与奪の権利を握っていきました。
そのような生活環境を一変させたのが、フランスの織機家ヨセフ・ヤカール(Jacqurd,Joseph-Marie 1752-1834)が発明した紋織機(ジャカード)の登場です。意匠図に従い穴が開けられた紋紙を用い、その穴の誘導作用で織り糸を操作するもので、20〜30本の違った色糸巧みに組み合わせて複雑な柄を構成することができます。フランス語では「ヤカール」と読むのが正しいと思われますが、いったん英語読みしてから日本語に直されたため、日本では「ジャカード」の呼び名が用いられています。
英国のペイズリーにジャカードが導入されたのは1820年代のことです。
この紋織機はショール生産に革命的な変化をもたらしました。誰もがこの織機を欲しがりました。しかし、値段が高く、家内工業の稼ぎでは、到底買うことが出来ず、織機を1箇所に集めて生産する工場生産に急激に移行していきました。

英国の地名・ペイズリーが柄の名前に・・・

工場制の大量生産はコストが引き下げられ、品質の良い商品が市場に出回ります。ことにカシミールのショールは値段が高く、かっては王侯、貴族しか身につけることができなかった「高嶺の花」の存在だったので、コピー商品でも安いのは大歓迎。飛ぶように売れました。19世紀のビクトリア王朝の頃にはスコットランド・ペイズリー市のショールが世界各国に輸出され、ペイズリーの名は世界各国に知れ渡りました。カシミール柄といわれていた曲玉模様まで、ペイズリーと呼ばれるまでになりました。
本家のカシミール地方では手の込んだショールを作る職人さんがいなくなり、生産が中断されました。英国のペイズリーがそれに取って代わり2代目を引き継いだ格好になりました。
柄行きも松かさ、石榴をモチーフとした植物模様、古代インド仏教にヒントを得たものと、イギリスのビクトリア王朝風の装飾が融合をしたものとなりました。
しかし、1870年を契機にあれだけの人気を誇ったショールに陰りが見えてきました。他ならぬ絹のスカーフの登場です。繊細で保温性の優れた絹は薄くて、軽い特長を持っています。シルクスクーリンによるプリントでどんなに複雑な柄でも再現できます。色が鮮明です。
大量に作ることが出来ます。大きさも余り制限を受けません。

ネクタイ、スカーフ、靴下、鞄から、パジャマまで

こんな歴史を持つペイズリーも19世紀後半には忘れられた存在となりました。再びこの柄に活を入れ、現代に甦らせたのが、エトロの創始者ジモンです。
1981年、彼は伝統的なカシミール模様に独自のアイデアを加えた織物やプリント生地を使ったアレダメント(壁張り用クロス、カーテンなど)を発表し、「エトロ=ETRO」のブランド名が初めて使われました。
1984年、ジャカード織機を使った多色織りの布地にPVC加工を施し、ヒット作品のペイズリー・バッグを市場に送りだしました。男物でもネクタイ、スカーフ、靴下、鞄、パジャマなどがすべてペイズリー模様でまとめられています。
一つの柄へのこだわりが世界的なブランド品を生み出すエネルギーとなったわけですが、このカシミール模様は民族という壁を乗り越えて、人間の心琴に触れるものがあるのでしょう。忘れられたかと思えば、また甦ってくる。ペイズリーパターンには不死鳥にも似た生命力が秘められているようだ。


ペイズリー柄に活を入れたエトロホームページ
http://www.etro.co.jp/#
BEYOND THE FRINGE Shawls of Paisley Design
http://www.victoriana.com/library/paisley/shawl.html


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