ピーコート(Pea Coat)

北海の男を暖かく包んだ半コート

ピー(Pea)は英語でエンドウ豆のことです。「わかった。丈の短い半コpeacat
ートだから、そんな名が付けられたのだろう」というのは、早合点というものです。「ピーコート」のほかに「パイロットコート」「リーフジャケット」
「ピージャケット」「リファージャケット」「ダブルブレストサック」など多くの別名を持っていますが、ジャケットという言葉が示すように、ジャケット程度の長さの外套です。
ピーコートはオランダ語の「PIJ JEKKER=ピーエッケル」に由来を求めることができます。
「ピー」は「粗ラシャ」のことで「豆」のピーではありません。 エッケルはジャケットです。
ダッフルコートと同様に北海で働く船員や漁夫の作業着として着用されていたものですが、半コートながら防寒機能は抜群、北海の厳しい自然に体温を奪われないための、いろいろな工夫が施されています。

ピーコートの副産物からできた室内靴

パリのモンパルナス駅からフランスの新幹線(TGV)に乗って南南西の方向に移動すること約3時間、大西洋に面した軍港として知られているラ・ロシュフォールに到着します。シャラント地方と呼ばれるこの地域はコニャックの生産地としても有名です。隠れた名産品としてはシャランティーズという内側にフワフワのウールを配した暖かい室内靴があります。
ロシュフォール港は1666年に開かれたといわれていますが、この開港により現在県庁の所在地となっているアングレームなどの周辺都市は、造船用の木材、武器、衣類などの流通で賑わいを増しました。水兵のピーコート素材として使われるフエルト地の生産も始まりました。
フエルトは水をよく吸収するので、当地で盛んだった製紙業でもよく使っていました。生産過程で出る不良反や製紙業者の使い古したフエルトの再利用、つまり、リサイクル事業として始められた室内靴作りが、いつの間にかシャラントの名産品になったものです。
ヨーロパの冬は寒く、特に足元がジワッと冷えてくるのを防いでくれるので、フランスの宮廷を初めとして、各国の上流階級の家庭で歓迎されました。
一見して関係がないように思われるピーコートと室内靴はこんなところで結び付いていたのです。

ネイビー感覚、フィンガー丈

「ピーエッケル」を英語読みにすると「ピージャケット」になりますが、初めて用いられたのは1721年とされています。現在では素材にネイビーブルーのメルトン地が多く使われています。
ダブルブレスト、幅の広い衿には装飾も兼ねミシンステッチが掛けられていてます。6つ、ないし8つ、フロントに配されたボタンはメタル製が好んで使われ、マリンムードを演出するために碇の模様入りのものに人気があるようです。丈はフィンガー・チップ・レングス。背縫い目がなく一枚の布で構成されています。裾周りの運動性能を向上させるために、両サイドに短いベンツが切られています。
このコートの特長はなんといっても、手を暖めるために、フロント部分にマフポケットを縦に取り付けていることです。

手先を暖めるマフポケットをビルド・イン

マフ(Maff)とういうのは古いドイツ語によるものですが、フランス語では「マンション(manchon)」と呼ばれています。毛織物や毛皮で作った防寒用のアクセサリーで、中が空洞の筒状になっており、左右から両手を突っ込んで暖をとります。もともと防寒用として考え出されたものですが、コートとマッチした、あるいは同じ素材で作られていたため、冬の外出の際のアクセサリーとして子供や婦人がよく利用をしていました。
アンリー三世の時代、つまり16世紀の末に誕生したマフは十八世紀になるまで、お洒落な紳士の外出用のアクセサリーとして愛用をされていました。
ことのほかに寒いといわれている冬期のヨーロッパ。簡単に暖をとる方法が無かった時のことです。その寒風に直接手をさらすことなく、霜焼けになるのを防止した役割は大きいものでした。
よく調べてないので確定的なことは言えませんが、襟元から入る冷たい空気を防ぐための衿巻き、マフラー(Muffler)も語源は同じだと考えられます。
この手を暖める機能マフをコートのフロントに縦切りのポケットとして、持ってきたアイデアは見上げたものです。
吹きさらしの船の上では、波が飛沫となり身体に掛かることもあり、手先がすぐに冷たくなります。こんな時に手をフロントのマフポケットに突っ込むと自分の体温で暖かさを取り戻します。

風向きにより、打ち合わせを「左」「右」に変更可能

もともとは北海で働く漁夫や船員が着ていたこのコートならではの特長は、風向きによってフロントの打ち合わせを左前にしたり、右前に変更して、胸元に寒風が入ってくるのを防ぐ「リーファー」という機能を持っていることです。
Reeferは帆船の帆を降ろしたり、巻き上げたりする縮帆員のことで、俗語としては海軍少尉候補生を意味します。昔のイギリス海軍では海軍少尉候補生が、この縮帆の役割を果たしていたので、彼らの着ていた服と、着ている人間とが、同じ言葉で表現されることになったのでしょう。
現在、英国を中心とした国々では、「リーファー」「リーフジャケット」を両前上衣、つまりダブルブレストを表す言葉として使用されています。なお、アメリカでは「ダブルブレステッド・サック」です。「サック」は袋、「両前になった人間を入れる袋」ということでしょうか。

ダブルのジャケット、ブレザーのルーツにも

ブレザーのルーツをこのリーファー・ジャケットに求める説が有力ですが、これにも二つの流れがあります。ダブルのリーファーをベースに19世紀に上流階級の学生たちが、ボートチームのユニフォームとしてシングルリーファーなるものを考案。これがいわゆるブレザージャケットのルーツだといわれています。
いまひとつは、1860年頃のイギリス軍艦「ブレザー号」の艦長が、それまで思い思いの洋服を着て軍艦に乗っていた艦隊員のまとまりを良くするため、紺サージで作った「ピーコート(ジャケット)」を、自費で作製、乗組員の制服に採用したのが、現在の「ブレザー」につながっているという説です。
どちらにしてもピーコートはいくつかの洋服を生み出すエネルギーを内蔵していたことになります。

世界の列強海軍がピーコートを制服に採用

時代と共にピーコートの使用素材やデテールデザインにも変化がみられます。当初のピーコートは現在のものとデザインが少々異なっていますが、第二次世界大戦の頃アメリカ、フランスやドイツの海軍で軍服として採用された時に現在の形が完成されました。
世界の海軍が争ってピーコートを制服として採用したことを見てもこのコートの機能性の優れていることがわかります。
日本では1979年頃に、フレッピーブームが起こり、マリーン感覚のピーコートも人気商品となりました。1990年にも渋カジブームで紺のブレザーが流行、ピーコートがよく売れたことがありました。中学校、高等学校の冬期の制服として採用するところも多く、一般に馴染み深いコートとして、男女を問わず着用されるようになりました。

映画「処刑人」では、市民服として

主役とは言えないにしても、ピーコートが重大な役割を果たしている映画として、トロイ・ダフィー監督の「処刑人」があります。
舞台は貧乏で犯罪は日常茶飯事という、ならず者が多く住むサウスボストン。ボストンは軍港として知られ、ピーコートきた軍人がたくさん歩いていました。軍人ばかりではなく、一般の人もピーコートを愛用していました。
ボストンの聖者マクナマス兄弟がピーコートを着て映画に登場して、善良なボストン市民の共通の願いである悪者退治に活躍します。
監督の意思はマクナマス兄弟がみ特別な人ではなく、ごく平凡なボストン市民であることを知ってもらうために採用した衣装といえます。
海の男のロマンを秘めた洋服だけに石原慎太郎、故裕次郎兄弟を代表とするヨットマンはこの服を上手に着こなしています。



ピーコートなど陸海軍衣服、小物の専門店
http://www.fatiguesarmynavy.com/store/item/US1514


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