ウール(Wool)

縮れているのは「ウール」、「ヘアー」はストレート

私たちが身に着ける動物性の天然繊維には、「ウール」と「ヘアー」がありまhituji
す。この両者の違いは「縮れているか。いないか。」で見分けます。
18歳未満・禁のフアンなら、「そんなのは簡単、縮れているのはヘアーの方でしょう」という答えが返ってきそうです。しかし、これは間違い。
羊毛には鱗片がついており、クリンプの働きで、見事に縮れています。これに対してヘアーはストレートに伸び表面の鱗片が少なく、ツルリとしているので、光沢があります。普通の服地とモヘア服地との差を想像してもらえばよく判ると思います。
一口にウールといっても改良の上に改良が加えられ、色々な種類ができました。一説によると羊の種類だけでも3000種に及ぶといわれています。
より細く、より柔らかく、より格調が高く・・・という人間様の限りない欲望に応える羊も大変です。

七千年来人類を包む。羊頭数では中国、生産量は豪が世界一

古来より人間は天然にある繊維を身に着けてきました。植物系統では下着からカジュアルウェアに至るまで広く使われているコットン(棉)、夏服、ハンカチーフなどに用いられるリネン(麻)があります。
動物系としてコート、背広、婦人服、セーター、シャツ、帽子、毛布などと用途の広いウールとカシミア、アルパカ、ラマ、ビキューナ、アンゴラ、チンチラ、キャメルなど獣毛(アニマルヘアー)があります。
ウールは日本語では「羊毛」と表記されており、文字通り「羊の毛」です。羊は人類との付き合いが一番古く、七千年以上に及んでいます。その間に人間様の都合が良いように改良が加えられ、全身が優秀なウールで覆われるようになりました。
世界の羊頭数は約10億5,600万頭です。頭数では中国が世界一ですが、羊毛生産量はオーストラリアが依然として、世界総生産の約3分の1を占めており、トップの座を保っています。

紳士服はウール主体、密猟で獣毛は不足気味

ウールを最も多く消費するのは紳士服で、43%が素材としてウール使用しています。
他にウールをよく使用するものとして、ニットウェア、婦人服地があります。
原料供給面ではやや過剰気味で、今後とも心配するとはありません。
これに対して、先に紹介した獣毛類はレアファイバー(稀少素材)といわれるように、生産量がもともと少ない上に動物そのものが、密猟、不法捕獲で数を減らしており、ワシントン条約により、保護に乗り出さなくては絶滅のおそれがあるものも含まれています。
羊の種類は約3千種類とされていますが、血統で分けると「メリノ」「クロスブレッド」「その他」の3つに大別されます。

最高品質は「メリノ種」、200年前にスペインより豪へ

高級紳士服地の原料として無くてはならないメリノ羊毛です。白色で柔軟な毛質、細い繊度を持ち、高価で取引されたので、その昔、スペイン政府はメリノを独占し、法律を作って、国外移出を厳禁しました。大航海時代に巨大な費用を使えたのも、メリノ羊毛が稼いだ資金があったからです。
ローマ時代にもメリノ種の羊はいましたがヘアーとウールが混在し、毛色も白、茶、黒などまちまちでした。交配を重ね、色が白く、細く、柔らかい毛を産出する羊(メリノ種)の開発に成功したのが、スペイン人のルチアス・コルメラで、以後はスペイン王室の独占品として莫大な財をもたらせました。
ナポレオンのイベリア半島侵攻の後、メリノ種の羊はドイツ、フランス、イギリス、南アフリカでも飼育されるようになりました。
オーストラリアに渡ったのは、約200年前ですが、気候風土がメリノに最適であった事と、品質改良に力を注いだ結果、、オーストラリアのメリノウールが世界で一番品質の優れたもの、という評価を定着させました。オーストラリア以外にもメリノ種を飼育してる国がありますが、先祖をたどるとオーストラリアメリノに行き当たります。

より細い羊毛を求め熾烈なバトル

人間の欲望は限りなく広がります。より細い羊毛を求めての競争もその一つです。毛織メーカー、ウールンマーチャント(毛織物卸業者)、輸入商社も加わって激しい一番争いが繰り広げられました。
細い羊毛は生産量が少ない上に、糸にするのが難しく高度な技術が求められます。細い羊毛を使い高級服地を生産していることが会社のイメージアップにつながり、格好の宣伝材料になるからです。
一般的なメリノは中番手で64〜70s、です。細い羊毛を使った服地は表面が美しく、軽くて、しなやかで着る人に重量的な負担を感じさせないため、年輩者にも喜んで着用されています。
あまりにも繊細な原料を使うと皺になりやすく、手入れが大変です。スーパー100sの服地が出たときは、「実用的にはこれが限界」と言われていましたが、いつのまにかスーパー120sが現れ、「これが技術の限界」とA社が言えば、B社がスーパー150s、さらに日本のデパートに出店しているサビルローテーラーが出店20周年を記念して、親会社である毛織メーカーの協力を得てスーパー170sの背広を100万円で売り出すといった状態で、一時はコンピューター業界のクロック周波数さながらのバトルが繰り広げられていました。

スーパー表示か、ミクロン表示か。業界内で混乱

羊毛の繊度を示すスーパー100sという基準があいまいだったことも、バトル熾烈化の原因を作っています。別に糸の太さをあらわす糸番手があり、混乱に一層拍車を掛けています。
業界だけの問題ならまだしも、服地の耳に「スーパー150s」と織り込むなど、消費者宣伝にもキャッチフレーズとして使われるようになると、誤解を招くことになります。そこで、繊度の表示を「ミクロン」に統一しようという動きが出てきました。
繊維の宝石といわれているカシミアは15〜16ミクロンです。エキストラスーパーファインという羊毛は16〜17ミクロン、スーパー表示と違ってミクロンは数字が大きくなると太くなります。服地用としては28ミクロンが限界で、それより太いものはインテリア、その他の素材として使われます。
ちなみに人間様の頭髪は70〜80ミクロンです。
1ミクロンは1000分の1ミリ、まさにミクロの世界の話です。
日本の毛糸相場の標準番手である四八双糸は21ミクロンの羊毛が使われています。しかし、ミクロン表示では無機質な数字で面白みがありません。もちろん宣伝用には使えそうもありません。

英国からミクロンに対応したスーパー表示の提案

そこで注目されているのが、英国毛製品輸出組合(NWTEA)の提案です。この協会には日本に毛織物を輸出している会社が多数参加していますので、実用的な提言だといえます。
スーパー150から200までと定め、スーパーが10増えるごとに0.5ミクロン細くなるように決めようというのです。これでも若干の曖昧さは残りますが、それぞれの業者が、自分勝手な基準でスーパー表示をするよりはずっとスッキリしたものになります。
協会のメンバーは年に2回来日して、日本のマーケット動向を調べています。共同の展示会や色々な形の販売促進活動などを行っていますので、日本の消費傾向も、原料の良さ、とりわけ原毛の細さが販売に際して、消費者の購買力を刺激することも熟知しております。
この提案を元にIWTO(国際羊毛繊維機構)が使用羊毛の平均繊度・ミクロンとスーパー表示の関係を数字で表すことにしました。スーパー80s=19.5ミクロン、90s=19.0、100s=18.5、110s=18.0、120s=17.5、130s=17.0、140s=16.5、150s=16.0、160s=15.5、170s=15.0、180s=14.5、190s=14.0、200=13.5、210s=13.0となっています。
メーカーの勝手な判断で、スーパー表示ができなりました。素人の消費者が混乱しない、判りやすい表示となりましたが、10000分の5ミリという顕微鏡でも判らない数字にこだわる男の心理はおそらく女性には判ってもらえないと思います。

世界一の細い羊毛産地、タスマニア

オーストラリア大陸の南海上に位置するタスマニア島には、細くて、弾力性に富む羊毛をを産出するドイツのサキソニーメリノの血を引く羊がたくさん飼育されています。このエキストラ・スーパーファイン・ウールを獲得しようとして、日本、イタリア、イギリス、韓国などのバイヤーがオークション・シーズンにやってきて、競りに参加します。
一般の羊毛は生産過剰気味で相場は下落していますが、タスマニアのエキストラ・スーパーファイン・ウールは生産量も少なく、希少価値が高いだけに各国のバイヤーは競いあって値段をつり上げていきます。
同じグラム数なら純金よりも高い値段が付くこともあります。同種の羊でも山の上の方で育ったものと、麓のなだらかな丘で飼育されている羊の毛は質が異なります。食べる牧草にtasmaniaよっても差が出ます。
細く、柔らかく、繊細な毛を得ようとして室内で飼育したり、一匹一匹の羊にコートを被せて雨や埃が身体に付かないように大切に育てている牧羊者もいます。
このような特別な飼育方法を取らなくても、生後6カ月までの子供の羊の毛は「ラム」といって、カシミヤに劣らない柔らかさと、独特の光沢を持っています。
羊毛はオークションに掛けられ、高い値段を付けた会社に落札されます。オークションで質の良い羊毛を見つけ、希望の価格で手に入れることは、熟練と、経験が必要とされています。

一着の背広が100万円を超える理由

目でしっかり観察し、手をふれて確認し、時には口に含んで羊毛の品質を調べます。この羊毛を糸に引き織物にするのに大変な手間が掛かります。一般品と混ざらないように機械を徹底的に掃除をしなければなりません。すべての工程でロットが少ないためのロスが出ます。
洋服を仕立てる時にも細心の注意が必要です。誤ってアイロンで焦がしてしまうと、損害は計り知れません。生産量が少ないので、生地のスペアが無い場合もあります。
あれや、これやで100〜150万円。あるいはそれ以上の値段になってしまいます。
高いか、安いかの判断は「自分の価値観」だけが基準となります。
『毎月1着ずつ洋服を作っていても年に12着、働く期間を40年として480着、貴重な一生で500着の服も着られない。100万円クラスの洋服が2着や3着入っていても、どうということはない。』と、ご自分の洋服哲学を披露する人もいるくらいです。世間は広いものです。
ある輸入商社の話では、日本に15着ぐらいなら一般の人が「アッ」と驚くような値段が付いていても、希少価値に纏わる、納得のゆくストーリーがあれば完売するということです。一時、純金糸、グアナコ、チンチラ、ビキューナ、ミンクなどの稀少原料を混紡した高価な英国服地が輸入され話題を呼びました。服を着るより話題を着る恵まれた人々は、どんな財布をお持ちなのか拝見したいものです。



ウールのことなら何でも判る。ウールマーク・オフィシャルホームページ。
 http://www.woolmark.gr.jp/

藤井毛織(羊毛高値入札でギネスブックに掲載)のファッション用語講座
 http://www.fujiikeori.co.jp/


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