18本のワインリスト



これは、一昨年のある講演会のお話です。

その講演会とは、わたしの会社にいるワインのソムリエの資格、それもシニアソムリエ(ソムリエでさらに実務経験が10年?5年?必要) のK氏にワインまたはソムリエについて1時間の講演をしてもらい 、合わせてその後、試飲会を開催するという会だった。 時期は、ちょうどクリスマス・忘年会シーズンを前にした12月のアタマだったと思う。
また、その頃SMAPの稲垣吾郎さんが、「ソムリエ」という名のTVドラマを やっており、毎週毎週、ワインの講釈をドラマで聞いていた頃でもあった。
さらに日本ソムリエ協会から名誉ソムリエの称号を授けられた巨人の江川投手が「夢ワイン」なる本を出し、売れていた時で ベストマッチした講演会だったと思う。

実はこの会を提案したのは、会計=幹事の「わたし」だった。 これは、終ってみて、我ながら「あっぱれな企画だったなぁ」などと満足してニヤリとするぐらい 楽しかったのでした。

ワインのソムリエの中でもまた、経験を積まないとなれない「シニアソムリエ」である K氏のことは、実は前回の同じ会の(別の方の)講演会の後の懇親会の席で 「あの江川さんの夢ワインの名誉ソムリエの称号を受け取っている場面の写真は わたしが撮影したんですよ」というのを横で聞いていたことに始まる。 その後、K氏がソムリエとしても有名な人であるとある人から聞いた。

そして、毎年恒例の講演会を今年は誰にお願いするか?で提案を募ったところ 会計=宴会幹事のわたしの「K氏にワインの話で」をお願いするというのが 一発で採用になった。

事前の打ち合わせで、最初にワインを含めた「ソムリエについて」という題で 講演をしたいただくことになり、その後、みんなで買いだしして用意した18本のワインの試飲会を K氏作成のワインリストを片手に開催するという段取りに決定した。

ワインというとすぐに「テイスティング」と考えてしまうが、熟練したソムリエでも まったくの”ヒント無し”にその銘柄を当てる「テイスティング」はなかなかに難しいそうである。
そして、当たらないと「つまんない」と観客側が感じるということである。

「ふーーん、そっかーぁ!。そういうもんかーー」 といつものようにノー天気に納得し、

でもって、試飲会の開催ということになったのである。

K氏の指示で、18本のワインを世話役何人かで手分けして買ってきた。 平均単価は、@2400円程度である。 だから、1000円以下のワインもあり、一番高くても4500円ぐらいのものである。
つまみも刺し身もチーズも用意して万全の体制。さらに、幹事のわたしはもし、ワインが全部 無くなって酒が切れたら絶対いけないという「いやしい酒飲み根性」からナイショでウイスキーも1本買ってきておいた。 (結果的には、手をつけなかったが・・・・)

講演会自体も、わたしとしては「ソムリエについて」と「レストランでのワインの注文の仕方」 のロールプレイングまでやっていただき、大変に興味深かった。

その後、100人近くいた聴衆の中の希望者(実はその会の世話役がほとんどだったが)が、 その後20〜30人で、試飲会に臨んだ。

「よかった。ホッとした」聞いていた人全員来たら、ワインが みんなに回らない!と実は心密かに心配していたのである。

後かたづけのことを考えると、コップはプラスチックのものでいいかな?と思っていたが、 K氏は、絶対にちゃんとしたワイングラスでないと駄目だという。 シャンパンなどは「アワ」の立ち方が違うので 絶対に駄目とのこと。しかし、1回の試飲会のために安くてもワイングラスを買うことは難しい。 すると、K氏は、「グラスはわたしがお貸ししますよ」とおっしゃって、 凄い数のグラスをお貸しいただいた。そんなにたくさんのグラスをもっているということだけでも、 とてもビックリした。

そして、試飲会のやり方とは以下の要領であった。

18本のワインをテーブルに並べ、そのワインの前に「1」から「18」までの番号を書いた紙を 置いた。そして、1本、1本、K氏が@1000円程度とおっしゃるソムリエナイフで開けて解説を聞きながら、 少しずつ、飲んだ。(稲垣吾郎さんがTVで使っていたのソムリエナイフは2万円くらいすると言っていた)

わたしは、この18本、「絶対、全部、味見する」との固い決意のもとに最初は、量をセーブした。
まさに、酒飲みの「ブタ飲み根性」が見え見えであった。

K氏の作成してくださった18本のワインリストは、ワイン名と簡単な紹介が書いてあった。 それを実際に、ほんもののシニアソムリエのK氏が言葉で解説をしながら、 飲むのである。

う〜ん、ゴージャス!だなぁ〜!!それは会社の中であるがまったく別の場所に タイムスリップしたかのようだ!
これを”贅沢”と言わずして、いったい何を”贅沢”というのだろうか?

自分で自分の企画に酔った。(ほんとにワインにも、酔った)

「こ・・、これはいい。ほんとに。こんな楽しいことだったら、 毎年やっちゃえよぉー」などと安易な提案をする奴もいたが、もっともなご意見である。 そして、赤から白へ、いや白から赤へだったかな?まんなかにシャンパンも3本まぜて。 フランス、ドイツ、イタリア、チリ、と次から次へ。日本のも1本だけ入っていた。 結局、18本全部飲んで、さらに好きなものをお替わり。

するとしばらくして会のと中で最初にある1本が空になった。 するとK氏曰く、
「みなさん、このワインがこの会での一番人気ということになります。 でも、これは決して高いワインではありません。1000円以下のワインです。 でも、みなさんがもう一度、飲みたいと思った方が一番多かったワインということになります。
ね・・!。ワインは、値段じゃないんですよ」

おおぉ・・・!そうか。そうやって判断するんだ!確かに、一番先になくなったと いうことこそが、この会の出席者の人気のバロメーターが高いということだ。 それが、高いワインでないということも、「ますます」面白く。ますますワインの量が進んだ。

いつものように調子に乗って、どんどん飲んでしまったのでした。

会がお開きになっても 残ったワインを最後の最後に酒飲み4人で飲みつづけとうとうおみやげにもって帰ろうと 思っていたものまで、飲み尽くしてしまった。 気がつくと、いつものように、完全に泥酔して大声でしゃべりまくるただの酔っ払いです。 結局、ワインでも焼酎でもなんでも酔ってしまえばおんなじか?酒飲みには。

ただ、覚えているのは、最後の「16」「17」「18」の、黄金に輝く”3本のワイン”のことだけです。

K氏は、言っていた。「その最後の3本を飲んでしまうと元に戻れなくなりますよ」と。
「だから、最後に飲んでいただくんです」

つまり、この3本のワインは、とても甘口のデザートワインという種類のものである。ほんと、蜂蜜のように甘い感じがした。
その名を「貴腐ワイン」という。「貴く腐るブドウ」で作ったワインである。

この黄金に輝くワインを飲んだ時、「あ・・・!これだ。このワインだ!」ともう15杯も 試飲して少し酔いが回っていたわたしは声に出して叫んだのでした。

このワインこそは、わたしがその昔学生時代に、所沢の友達の”ケメ”くんの自宅に上がり込み、 昼間から銀行員だったお父さんの大切にしていたワインを飲んでしまった記憶を思い出させたのでした。

その「金色に輝くワイン」を 「いいから、いいから」と”ケメ”くんは、わたしともう一人の友達にドンドン飲ませてくれたのだった。

当然、「おいしいねぇ」「ほんと、ほんと!」などといいながら1本、そしてもう1本をペロでした。

後日、ケメくんは、お父さんにだいぶ怒られたようであった。どうも大切にとっておいたワインだったようですね。
でも、ワインに「造詣の深くない」わたしは、そのワインがなんという種類であるのか? また、どうしてその後も高い白ワインを飲んでも「その時の味に出会えないのか?」不思議でした。

それが、実はこの「貴腐ワイン」だったのだ!まさに、20年捜し続けていた恋人にやっと出会えた瞬間のようなものでした。 現実の恋人だったら「年取っちゃって」ますけど、ワインは昔の味のままです。

「ソーテルヌ」というこのワインこそが、その銀行員のお父さんを怒らせてしまった あの”おいしいワイン”だったのである。

これは、とても甘く、「酒飲み」には甘すぎてイヤと言う人も多いようだが、 でも、わたし酒飲みですけど、このワインも好きだなぁ。(なんでも飲むということかな?)

でもね、やっぱし4500円は高いよね。今の時代のワインとしては。 家で飲むのだったら、サントリーが輸入しているチリワインの「サンタカロリーナ」で 赤でも、白でも十分に美味しく飲めます。これにスーパーの入り口でたまに山にして売っている 1000円以下のドイツワインの組み合わせで、 もうワイン生活に突入できること請け合いである。

また、チャンスがあったらぜひ、やって欲しいなぁ。本物のシニアソムリエのサービス付きの 18本のワインの試飲会。
もっかい提案しよっと。でもK氏は、講演はもうやってくれないだろな。
じゃ、試飲会だけでもお願いします。いや、自分たちだけでもやるか?
でも、「あの本物の講釈を聞きながら」じゃないと ”ゴージャス”にならないんだろうな。きっと。