かきくえば



今年の会社の新年会は事件がありました。

金曜日に部長会の新年会に事務局(雑用幹事です)ということで、部長でもないのに参加して 楽しく美味しく食べて帰りました。 そして、月曜日に一人の方が朝、わたしのところへいらっしゃいました。

「深谷くん、金曜日のアレ、大丈夫だった?俺調子悪くってさー、診療所に行ったら Kさんが調子悪いからって来たんだよねー。昔、当たったことがあるからわかるけど きっとアレに当たったと思うよ」

「えー!!そうですか。わたしは実は1つも食べてないんですよー。20年前に当たって以来 生は止めてるんです」

「そうかー。じゃー、ほかの人がどうだったか調べてみてよ」

「ハイ。わかりました」

そんでもって、調べました所、10人のうち月曜日に休んだ方が4名。日曜日に最悪だったけど月曜日は直って出社した方が 1名。来たけど診療所へすぐに行った方が2名。なんともなかった方2名。そして食べなかった わたしが1名の合計10名です。

おおぉぉ・・・!これは、まさしく「アレ」に当たったと確信しました。 なぜならば、今を去ること20年近く前にまったく同じ体験をしたことがあるからです。

やはり、金曜日の夜の宴会でした。 広島支店へ転勤になる、3年後輩を送別ということで当時としてはとても高いと思われた1万円コースで 「アレ」の料理のフルコースを歌舞伎町の入り口のビルの2Fだか3Fだかにあった広島の名店の支店で 豪華に開催しました。本店の写真を見ますと、その門構えからすっごい高い、高級な店の支店であることが 一目で見てとれました。まぁー、歌舞伎町の入り口の憧れの店だったっちゅう訳です。 送別会にかこつけて、一回食べてみたかったということだったと思います。

当時の1万円のコースは美味しく大いに盛り上がり、広島へ転勤していくのにあの料理で送り出すという 訳のわからない送別会は無事終了しました。

もうお分かりですね。「アレ」とは、「生牡蠣」のことです。


そして、月曜日。

どうも、激しい下痢と寒気と微熱が前の日から続いていました。 風邪ひいちゃったかな? とても会社へ行ける状況ではなく会社へ電話して「あ、すいません。深谷ですけど、きょう風邪ひいたみたいなんでオヤスミ頂きます」と電話しました。 と、事務の女性の反応がチョット変だなと思ったんですが・・・。

すると午後になって、当時住んでいたわたしの中野区のアパートへ 黒服・蝶ネクタイでビシッと決めた体格のいい方がやって来られました。

ピンポーン。

月曜日の午後です。誰かなー?と思って出てみますとそこには、黒服・蝶ネクタイでビシッと決めたマネージャー氏が立っておられました。

ドアを開けますと、開口一番、「このたびは、申し訳ございませんでした」と90度の最敬礼。 差し出した両手には、新宿高野のフルーツ盛り合わせが。

「あのー、どなたでしょうかー」

「失礼致しました。申し遅れました。わたくし新宿●●の××と申します。このたびは 大変ご迷惑をお掛けいたしまして、こうして皆様のご自宅をお伺いしてお詫びに上がっている次第です」

「はぁー?」ここまで言われても、いったいこの黒服のマネージャー氏は何しに来たのかピンときません。

「実は、金曜日に宴会をして頂いた深谷様のご同僚の方のほとんどの方が休まれまして・・・」

ふーん、休んだの俺だけじゃなかったんだー、とその時に初めて理解しました。 でも、実は自分の場合には、絶対風邪だと思い込んでましたから 「いやー、わたしは当たったんじゃないと思いますけどねー」なーんて言ってました。 すると高野のフルーツの上に今度は封筒が・・・。

「これはお見舞いということで・・・」 明らかに現金です。実は、宴会代と同額の1万円札が1枚入ってました。
(まぁー、風邪だと思うけどくれるっていうものはもらっとこうかなっと)

「いや当店も管理には万全を期しておりますが、今年は牡蠣の当たり年で 新宿の方はそうでもないんですが、霞ヶ関の方で出まして・・・」

「はぁー、それで一軒一軒訪問されてるんですかー?大変ですねー」

そして、ありがたく新宿高野のフルーツ盛り合わせとお見舞金の1万円をいただいたわたしに マネージャー氏は
「それでは、ひとつこれでお願いします」と 右手の人差し指をまっすぐに結んだ口の前で立てられた。

「あ、わかりました。これで」とわたしも口の前に人差し指を反射的に立ててお返事をしました。

おう、ラッキー!これでただで宴会やって新宿高野のフルーツもうけちゃったぜぃ!

後で聞けば、この時の宴会も10人でしたが、食べなかった人1名。食べたけどなんとも なかった人は取手の課長とオカルトさんの2人だけ。
(この2人はなにを食っても平気と 尊敬と蔑視の入り交じった目でその後みんなから見られることになります)
後の7人のメンバーは、みんな月曜日にオヤスミとなってしまったという訳です。

金曜日の宴会に参加できなかった健啖美食家の当時の上司の部長が、月曜日会社に来てみると 部下が7人も一斉に休んでいるではありませんか。 すぐさま、これは金曜日の宴会で食べた牡蠣が原因と判断。

「絶対当たったな、すぐ電話をしなさい」

「仕事に支障が出ます。どうしてくれますか?」 と食べなかった先輩に指示をしてお店に連絡。そして黒服のマネージャー氏がその日のうちに全員の自宅を 新宿高野のフルーツをもって謝ったということでした。さすが名店だなぁーと思いました。

結局、2日以上休んだ人が多かったかと思います。 会社へ出てみるとその電話をしてくださった先輩が
「お前らに戻った1万円は、俺のおかげだぞー!俺におごれ!!」と叫んで大騒ぎされていましたが、
「苦しんだのはぼくたちですから」と誰も取り合わなかったのを覚えています。

その時の経験から牡蠣に当たるということはどういう状態を言うのかを知っていたわたしは20年ぶりのことでビックリしました。

牡蠣は、潜伏期間が1日から1日半くらいあるためにまさか金曜日に食べたもののせいで 日曜日に風邪のような症状がでるとは誰も思いもよりません。 今回のように月曜日に大半の人が休んでそれでやっと気がつくということなのです。 ですから、数人で飲んで月曜日に会わない人たちだったらまさか自分が牡蠣に当たったとは直ってからも 分からないと思います。 だって、ひどい下痢の風邪の症状そのものなんですからね。

しかし、今回の部長の宴会が20年前と違ったのは、火曜日には全員が出勤されたということです。 新入社員に近かった当時は2日以上休んだものが大半でした。

やっぱ、「出世は体力だなー」と実感した次第です。牡蠣に当たっても1日で回復する体力、これが部長の必要条件なのね。