”しら河”の「ひつまぶし」



”しら河”とは、名古屋の繁華街の地下鉄今池駅10番出口から出たところにある「ひつまぶし」の専門店である。千種郵便局の対角線のガスビルの地下1階にある。

わたしは名古屋の隣に市に生まれ、高校も三河地方に行ったので名古屋のお店をほとんど知らない。そのためこの名古屋の有名な食べ物「ひつまぶし」を今まで食べたことが無かった。

この日は昔東京でいっしょに仕事をしていた仲間で、今は名古屋支店で営業マンをしているイッキアマノ氏と久しぶりに飲むことになった。

「イッキアマノ」とは、飲んでいるときに頼まれもしないのに自分で「突然一気飲み」をするのを特徴としていることから命名。相当に酔っている時に強い酒でこれをやられると見ている方がビビるのである。

地下鉄伏見駅で待ち合わせをしたが、特に行く店を決めてないということで、これは「ひつまぶし」を食べるチャンス!と思った。 母親からこの”しら河”が「結構おいしい」と聞いていたので、その場でケータイで予約を入れた。

「今から15分くらいで2人入れますかー?」
「今はカウンターしか空いておりませんが、15分後でしたらお席を用意できると思います」
「では、行きますのでよろしく!」

そいでもって着いてみると、店の外で5人ほど席がなくて「お待ち」になっていた。
その5人をすっ飛ばし、予約の席へ。ケータイ買って良かったねー!!やったと思った。

酒を飲むのが主目的なので、ミニ会席3,800円のセットを注文して量が足り無かったら追加しようと判断した。会席は2つのコースがあったが、どちらを選んでも最後にミニ「ひつまぶし」がついてくるのがポイントである。 明るく、広い店であった。

口取、刺身、湯葉しゃぶ、天ぷら、酢の物が順番に出てきてその間に生中2杯を飲んで、その後お約束のように「冷酒」を頼んだ。
銘柄は忘れたが0.8合のガラスの徳利を2本頼むと氷の桶に入れて持ってきてくれた。酒の銘柄を記したノボリが氷の山に刺してあった。

この冷酒もうまかったが、9:00のオーダーストップの時間に今夜の主目的の「ひつまぶし」がとうとうやってきた。(きも吸、漬物、最後にフルーツもきた!)

そのお盆の上には、短冊状の「ご注意書き」が添えられていた。
以下、その短冊をそのまま引用する。

味の三様−−−−美味なる召し上がり方
ひつに入ったまま、しゃもじで5〜6回かぎまぜます。鰻の身が崩れすぎないように、軽くかき混ぜてください。

1.そのままお茶碗によそってお召し上がりください。素材の良さ、焼きの確かさをご堪能いただけます。

2.お好みの薬味を添えてお召し上がりください。爽やかな香りが、鰻のふくよかさに軽さを加えます。

3.最後は、吸茶をかけてお茶漬けでどうぞ。ほろ苦いお茶の中にタレと脂が溶け出し、他では味わえない美味です。

と、イッキアマノ氏と二人でその通りやってみた。(薬味とは、「ネギとワサビと刻みノリ」のこと)

うまい!ほんとうに3通りの味がする。どこかの宣伝文句ではないが、「一粒で3度美味しい」とは、このことである。

やはり、これは名古屋の合理主義が生んだ食べ物だなぁ〜!と感心し、「うまい!」「うまい!」を連発して食べた。オーバーな客だと思われたと思う。
最近いろいろ食べた中では、その値段と味から最もコストパフォーマンスが高いと感じた食べ物である。

後で、妹に聞いたところ、「ひつまぶし」を覚えきれなくて「ひまつぶし」と間違える名古屋以外の方が多くいらっしゃるそうである。
これは、「おひつ」に「まぶす」から「ひつまぶし」というのであって、語呂だけで覚えると確かに「ひまつぶし」と覚えてしまうのも無理からぬ話だなぁーと思う。

イッキアマノ氏とは、2年ぶりであったが、楽しかった。飲んだ勢いで、昔の仲間のエイゴアサイさんにケータイから電話した。

ル、ル、ル、ル・・・・・。

「はい、エイゴアサイです」
「あ、、エイゴアサイさん?深谷だけど・・・今どこ?。あのさー、今さー、名古屋でイッキアマノと飲んでるんだけど、来れるかな?」
・・・来れる訳ないでしょ!

東京は青山表参道のデザイン会社で仕事中のエイゴアサイさんは、最初は何がなんだか意味が理解できなかったがイッキアマノ氏に電話を代わる頃には状況を理解し、

「あ、今、そちらに向かってますーー!」と返事を返した。この返事一本槍で、われわれ酔っ払い二人のくどい電話攻撃をなんとか乗り切った。ゴメンネ。
・・・と、現在も彼が昔の会社で元気に仕事をしているのを確認したわれわれは、さらに冷酒を注文したのであった。

イッキアマノ氏は、わたしより7年後輩である。名古屋に転勤になる前までは東京以外に勤務したことはなかった。
そして、飲んで酔いが回ってくると彼から次のような言葉が出た。

「営業は、楽しいですねー!、深谷さん!!」

さらに他県から来ると難しいと言われる名古屋の悪口を一言も言わない。

これは、素晴らしいことだと思った。普通は名古屋の悪口を言う人が多いのである。
それで、「こいつは名古屋でしっかり働いている!」と思った。

東京での勤務が長いとどうしても、地方に転勤になったときにその地方に馴染むまでに時間がかかる。 そして、それが馴染んだか?どうか?は、その土地の「悪口」というか「馴染めないところ」をいつまで言うかというところにかかっているとわたしは思う。


その土地のことが好きになる。これが最初の一歩。でも、これこそが最も大切。

これができて「初めて、その土地での生活が始まる」と言えると思う。


最初は、「東京が恋しい、恋しい」と言っていた奴がある日を境に「東京に戻りたくない!」と言い出す。こうなったらキチンとその土地に馴染んだ営業活動ができている証拠である。でも、イッキアマノ氏は最初から馴染んでたと思われる。なんでかなぁ〜?

その”しら河”を出て、もう一軒飛び込みで居酒屋で12時まで飲んで、タクシーでイッキアマノ氏を送って実家に戻ってタクシー代は3千円。やっぱぁー、これだけ近いと地方では飲んじゃいますよねー。
札幌ススキノから毎日飲んでタクシーで帰ってきていた札幌支店時代を思い出した。

その日は、ほんとに「美味しく」「楽しかった」。
また、必ず行きますよ、”しら河”さん!。