”スミノフ”のドライ・マティーニ



社会人になりたての頃、 学生時代からの親友の慶太とともに 銀座にある”スミノフ”というバーにキチンとした格好をして行ったのでした。 慶太の兄貴が行って良かったと聞いたからです。
どこでもそうですが、バーは、最初にドアを開けるのに「とても勇気」がいります。
わたしたちも勇気を出してドアを押しました。

当時ここには、マスターとともにチーフバーテンダーといった感じで木村さんという方がいました。
この方は、サラリーマン(それも経理マン)だったのですが、 カクテル好きが高じてバーテンダーになったとおっしゃっていました。 色白の細身の二枚目の方で、銀座のバーテンダーとは こういうものであるのかと思ったものでした。 その後何度かこの”スミノフ”に通ううちにバーにおける酒の注文の仕方から、 作法まで「どこに行ってもビビらないように」ご指導して頂きました。
なかなか厳しい先生でした。その後、独立なさったのか? ”スミノフ”に行ってもいらっしゃらなくなりました。

20代前半のわたしたちは、この”スミノフ”というバーで 生まれて初めてカクテルとは、強い酒で、そしてとても”おいしい”ものだと知りました。

その日の帰りに夜遅くまで開いている銀座の酒屋で、一番おいしかったドライ・マティーニのベースになっていたジンの 「タンカレー」というジンを買って帰ったのでした。 もちろん、「タンカレー」という銘柄を知ったのはこの時が初めてでした。

ドライ・マティーニの生命は、「切れ味」と「冷たさ」です。

この両方を兼ね備えたドライ・マティーニは、そんなにお目にかかれるものではありません。 ”スミノフ”のマスターと木村さんの作るドライ・マティーニは、両者とも、 「カミソリのように」切れて、本当に「冷たい」マティーニでした。最高です。

同じ材料、同じ分量で作ってもこうはいきません。

では、何が違うのか?自分で作るのや他の店で作るとどこが違うんでしょう?

それは、氷そのものが違う気もしますし、 それよりも「氷を扱う技術」がほかの店の人と全然違う!と見ていて感じました。 ミキシンググラスに氷を入れてから、まず最初は水を入れて バー・スプーンでかき混ぜ(ステアするといいます)その氷を溶かします。この時の氷の変化をどう判断するか?

ここです。このタイミングこそが、まさに名人芸のなせる技です。
みんな同じことをしていると思いますが、歴然とした差がこのタイミングにでるのです!

どれだけの時間か?その氷の溶け具合か?何が決めてか?わかりませんが、 慎重にこの氷の溶け具合を見ながら比較的ゆっくりかき混ぜています。 そして突然、決断するとステアするのを止めて水を捨て、すばやく、「本当に、すばやく」一瞬にして作り上げてしまいます。 客の前まで運んで、そこでレモン・ピール(レモンの皮のかけら)をサッと香りづけに絞りつける。 そして、お待たせ致しました、「どうぞ」となります。

そして、最初の一口。・・・唇が切れるがごとき「切れ味」と「冷たさ」です。最高の瞬間です。

その後、新宿、札幌、いろいろな都市のホテルなどいろいろなキチンとしたバーにもいきましたが、 ここのドライ・マティーニにはかないません。
あ・・、すいません。わたしは、あの有名な”クール”の古川さんのドライ・マティーニは、飲んでません。
申し訳ありません。

”クール”は、日比谷方面の銀座にあったので、場所的にちょっと遠くて夜は、なかなかいけませんでした。
当時の勤務先が新宿だったのでわざわざ銀座に行った時は、”スミノフ”のドライ・マティーニ毎回飲みたくなってしまうのでした。
今もマスター健在ならば、天下一品のドライ・マティーニが飲めますよ。 ほんとに「カミソリのような切れ味」のドライ・マティーニです。