名人とバイオリン



きのうの夕刊と本日の朝刊に将棋の話題が大きく掲載されていた。 新鋭の丸山忠久八段が8勝1敗でA級順位戦を勝ち抜き、 佐藤康光名人への挑戦権を獲得したという話題である。

将棋の世界では、7つの大きなタイトルがあるが、「名人」と「竜王」を 特に2大タイトルと呼ぶ。
そして、それ以外の5大タイトルとは、「棋聖」 「王位」「王座」「王将」「棋王」の5つを言う。

「名人」というタイトルがほかのタイトルと異なり、 「いかに難しいものか」が、今日(2000.3.4)の毎日新聞に解説してあった。

「名人」以外のタイトルは、予選のあと、本戦トーナメントやリーグ戦に よって挑戦者を決め、タイトルホルダーと七番か五番勝負を行う。 勝ち抜きさえすれば、プロ入りして1年で手にすることが可能である。
一方、「名人」は、「順位戦」によって挑戦者を決定する。

プロ入りした棋士はまずC級2組(今期45人)に所属する。成績上位の3人に入れば、 C級1組(同25人)に昇級。さらに、上位2人がB級2組(同23人)、同様にB級1組(同12人) 、A級(10人)へと、1年ごとに高いハードルが存在する。

プロ入りして”A級棋士”になるまでには、最も早くて4年かかる。 そして、その「名人」への挑戦権を獲得するためには、この最上級のA級の棋士と 総当り戦をして1番良い成績を残さなければいけないのである。

一時の勢いだけでこの地位にたどり着くのは不可能である。 さらに、実力を維持してA級でありつづけることは、並み大抵のことではない。

う〜ん、チョット考えただけでも気が遠くなるほど”遥かなる道のり”である。

そっかー!、やっぱし「名人」とはそんなにも、凄いことなんだなぁ〜!!。改めて感心した。

実は先週の日曜日、現在の第56期、第57期の名人である佐藤康光名人の講演をお聞きできるという縁に恵まれた。 娘がバイオリンを習っているのだが、佐藤名人の妹さんが同じ先生に習っているというご縁で、 「佐藤名人といっしょにバイオリンを弾く」という会に参加させていただいた。 佐藤名人も実はバイオリンを4才から弾かれており、将棋の世界に入って止めていたが、 最近、また練習を再開されているとのことである。

わたしは小学校以来、将棋は全然やらないので駒の動かし方しかしらないが、 NHKの朝の連ドラの「ふたりっ子」で将棋の世界の知識は少しだけあった。

また、羽生四冠がちょうど七冠を取るかどうか? の直前にやはりNHKのドキュメンタリーで羽生四冠の特集を放送したことがあった。 実は、その特集のときに、現在の佐藤康光名人が1993年の「竜王」戦で羽生四冠を破り、 「竜王」のタイトルを奪取していらしたので、谷川永世名人とともに「ライバル」ということで登場されていた。 それで、お顔もお名前も知っていたし、2年前に「名人」を取られたことも存知あげていた。

佐藤康光名人は、1969年10月生まれなので、現在、30才。まだ、バリバリに若いです。
小学生から将棋を指し始めて、中学2年生のときにプロになろうと決意する。そして、「ふたりっ子」でもお馴染みの 奨励会に入ってプロを目指した。 その後、高校にも通いながらの奨励会だったそうである。
1993年に「竜王」となる。
そして、1998年に谷川名人を破り、ついに将棋の最高峰「名人」のタイトルを手にする。
そして、昨年、防衛を果たす。現在も、2期続けての「名人」である。
「本当に凄いことなんだなぁ〜!」と改めて新聞を読んで思った。

その「将棋の世界」の文字どおりに"頂点"に位置されている佐藤康光名人の話を直接お聞きすることができて感激であった。

その日は、バイオリンを子供たちと「いっしょに弾く」ということが講演とともに もう一つの会の趣旨であり、バイオリンとのご自分の出会い等についても触れておられた。

お話の中で、バイオリンも将棋も同じように「情熱」と「集中」が必要とお話になっていた。

「情熱」とは、将棋が好きということ。
その好きという気持ちが「うまくなりたい」「強くなりたい」という気持ちを生み出す。
「好きという情熱こそ」が、上達にはやはり必要と。
名人は、将棋が「ほんとうに好きと感じる」と言われていた。

好きこそものの上手なれだが、それだけでは誰でも名人になれるはずもない。
やはり、類いまれなる「才能と努力」があっての事と思う。

「集中」とは、日々の鍛練は2時間くらいを「集中」してされるそうだ。 そこで、休憩を15分〜20分とる。そしてまた励む。だらだら練習をしないで「集中する」ということをお話になっていた。

特に、将棋は集中力を必要とするものと思う。

なんと言っても名人戦は、1日9時間も考えることを 2日間も続けるのである。合計18時間、何十手何百手も先まで「手を読んで」いるのである。凄い集中力と思う。

強くなるための研鑚は、「弱いところを防ぐ(補う)」のと「強いところを伸ばす」のと 2つのやり方があると思うとお話になっていた。

佐藤名人は後者の「強いところを伸ばす」タイプとのことであった。つまり長所を伸ばす。 これは、若松親方と同じだなぁ〜などと思いながら聞いていた。

今をときめく「名人」のお言葉だけに、この「情熱」と「集中」という言葉が、非常に強く心に残った。
また、「心・技・体」ということにも触れられていた。
名人は、対局前の調整をするときに、あまり相手のことを意識して調整をするのでなく、 自分自身の体調を整えることに専念しているそうだ。(=相手に左右されずにマイペースを保つことを大切にしている。)

司会者の先生が事前に質問をみんなから集めてまとめておられて何点か代表質問され、また会場で 直接質問もお受けになった。 その応答で名人の考え方や人柄に触れたような気がした。
以下に覚えているものを書く。

Q:「正座を長くしていると、足がしびれませんか?」
A:「20年間正座して対局しているので、しびれません。でも、普通に座るよりも疲れますね」

Q:「好きな食べ物は?」
A:「お肉類が好きです。今は好き嫌いはありません。
   入門したその日に師匠から嫌いな食べ物は何か?
   と聞かれ、”なす”と答えたらその日に”なす”が出たのは参りました。
   苦手なものをつくるなとの教えだったと思います」

Q:「プロは4段からと聞きましたが、先生は何段なんでしょうか?」
A:「九段です。(=最高位)これ以上はありません。また、降格もありません」

Q:「結婚してこどもができたら、バイオリンを習わせますか?」
A:「習わせたいと思います」

Q:「和服と洋服とどちらが多いですか?」
A:「名人戦などは、和服ですが通常は洋服で対局することが多いです」

Q:「思い出に残る勝負は?」
A:「やはり2年前の名人戦での勝った時の一局。それとプロになれたときの一局ですね」

Q:「ストレスは感じますか?」
A:「あまり感じるほうではありませんが、負けが込んできたときに少し・・・。」(笑)
  「バイオリンを弾いたり、コンサートに行ったりして解消しています。
   あと、本を読んだりとか、勝ったときの棋譜を見たりしてイメージトレーニングしたりします」

Q:「プロの棋士は、頭の中に将棋盤と駒があるといわれていますが、それはどんなものなんでしょうか?
   たとえば、色がついているとか?立体的なものとか?」
A:「人によっていろいろのようです。
   紙の上に書いたものが見える人もありますが、
   わたしは少し変わっていて"透明な盤と駒"が見えます」

まだ、たくさん質問があったが、会場の子供たちにも理解できるように お話と質問に対するお答えをしていただけたので、うちのこどもも1週間経った今聞いてもいくつかの内容を覚えている。
そして、お話の後に子供たちといっしょに合奏をしていただいた。

演奏に移る前、演壇で、「あの・・・、調弦できないのでお願いします」と言われたことが わたしには名人の人柄の誠実さが感じられて印象的でした。

わたしの娘も、いっしょに弾かせていただいたのだが、ちょうど位置が佐藤名人の近くだったので、 しっかり写真を撮っておいた。

将来、きっと「この時のこと」を思い出すだろう。

貴重な経験。

この絵を客席から見ていた親のわたしのほうが、感激してしまった。

最後に、本にサインを頂きました。 筆でしたためられたその文字は、銘として「流麗」でした。 何冊も購入した方には、「研鑚」「坐忘」(ざぼう。無我の境地のこと。)と記してありました。

よかったなぁ〜。こんな貴重な体験はめったにできない。お忙しい中来てくださった名人と 会を企画してくださった方々に感謝致します。ありがとうございました。

娘もきっと将来、思い出すと確信しています。佐藤名人といっしょにバイオリンを弾いたことを。

いよいよ来月から始まる名人戦ガンバッテください。もちろん家族みんなで応援していますからね。