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金庸の世界〜連城訣(れんじょうけつ)

連城訣』は金庸にしては上下2巻からなる短い作品であり、『射G英雄伝』や『神G侠侶』に比較して地味な作品となっているが、次から次に主人公に降りかかる危難と災難は前者の比ではなく、更に、その話のテンポは相変わらず早く、読者は読むことよりも本を閉じることに苦労を強いられることになる。

この作品の時代背景はすぐにはわからないが、原作を読む限り、劉邦を始祖とする「漢」が滅び「隋」が統一する前の魏晋南北朝時代(紀元400〜500年代)、承聖3年(紀元554年)に魏の将軍・于謹が梁の元帝を殺害してから数百年後以降の話であることから、紀元554年〜紀元1553年までのいずれかの時代で、「唐詩選」が発刊されているから、「明」(1368年−1644年)の時代と読みとれる。

もっとも、時代背景なんて作品を読んでいるうちは、一向に気にならない。気になるのは、『連城訣』という秘伝の書を巡る骨肉の争いに、悪人ばかりが登場し、善人さえもが悪人に見えてしまう不思議さ、逆に悪人と善人が戦っているときに、つい悪人の方に肩をもってしまう不思議さである。

この作品の主人公は狄雲(てきうん)、善人はこの狄雲とヒロインである戚芳(せきほう)と水笙(すいしょう)、そして獄中で一緒だった丁典(ていてん)、水笙の父親・水岱(すいたい)くらいなものであろう。

話の筋は、狄雲が戚芳の父親・戚長発(せきちょうはつ)を師として、湘西南郊の麻渓鋪という片田舎で修行の日々を送っていたころ、荊州に住む戚長発の兄弟子・万震山の誕生祝に呼ばれる。

そこで、戚長発らは、『連城訣』のありかを戚長発が知っていると疑っている万震山とその息子・万圭(ばんけい)の罠にはめられ、戚長発は行方不明となり、狄雲は万震山の弟子たちに右手の指を全部切り落とされ、万震山の愛妾に対する強姦と窃盗の無実の罪をきせられ投獄される。狄雲と相思相愛の仲であった戚芳は、狄雲が投獄されている間に万圭の妻となる。それも、戚芳に一目ぼれした万圭の策略であった。

肩甲骨を穿たれて鎖で結ばれて投獄されている狄雲は、同じ獄房の丁典に自分のスパイではないかと疑われ、毎日のように痛めつけられる中、戚芳が万圭の妻となったことを知り、自殺を図る。しかし、スパイではないことがわかり丁典に助けられる。丁典もまた狄雲にひけをとらないほどの悲運の一人であり、『連城訣』のありかを知っているがために、丁典が愛した凌霜華(りょうそうか)の父であるところの荊州の知事・凌退思(りょうたいし)によって投獄されていたのである。

凌退思もまた『連城訣』のありかを血眼になって探している一人であった。知事とは名ばかりで彼もまた『連城訣』のためなら、娘の顔を切り刻むほどの極悪人なのである。

獄中の中で、丁典が狄雲がかかった罠の謎を解く。そして、狄雲の師・戚長発さえもが、『連城訣』欲しさに、兄弟子である万震山と言達平(げんたつぺい)の3人して彼らの師・梅念笙(ばいねんしょう)の殺害を図るのである。梅念笙こそが『連城訣』の所有者であり、『連城訣』は武芸の秘伝書ではなく、梁王の莫大な財宝のありかを記す書であったのである。

その財宝のありかを知るには、『連城訣』と『連城訣剣譜』(れんじょうけんぷ)が必要であり、『連城訣剣譜』は梅念笙の殺害を図った時に、梅念笙が放り投げたのを戚長発が隠し持っていた。しかし、それは『唐詩選』の形をとっており、詩の文言が財宝の隠し場所を記すものであったが、戚長発には知る由もなかった。そして、『連城訣』は、詩のどれが財宝のありかを示しているか記しているもの、つまり、『連城訣』の詩の一連番号のどの番号が財宝のありかを解く詩であるかを記すものであった。

丁典は致命傷を負った梅念笙を助け、梅念笙は『連城訣』の秘密と天下無敵といわれる『神照経』を託し、2ヶ月後に死ぬ。丁典は獄中において『神照経』をマスターし、狄雲に伝授するが、肩甲骨を穿たれ、足の筋まで切られている狄雲にはなかなかマスターできるのもではなかった。

そして、『連城訣』の秘密を知るため西蔵(チベット)の血刀門下の僧たちまでもが丁典に襲いかかる。しかし、神照経をマスターした丁典の敵ではなかった。狄雲が投獄され7年後、凌霜華が丁典のため毎日のように牢獄の窓から見える場所に生け花を飾っていた花が枯れ始めたことを機に、凌霜華の安否が心配になった丁典は狄雲とともに脱獄を図る。

凌霜華は心労のあまり、既に亡くなっていた。そして、柩には金波旬花の猛毒が塗られており、柩を手にした丁典は毒により内力が奪われ、凌退思の配下となっていた万震山の二番弟子達に殺されてしまう。

狄雲は丁典を抱いて逃げるうちに、戚芳が万圭の妻となり子を生んでいることを知る。この後、ひょうんなことから、獄中で丁典を襲った血刀門の総師である極悪人の僧侶・血刀老祖(けっとうろうそ)と血刀老祖が人質にとった水笙との西蔵に向けての逃避行が始まる。

自分の娘を人質にとられた水岱らが、雪深い西蔵の山中で血刀老祖と死闘を繰り広げる様は凄まじく、この作品の一番の圧巻かつ最も面白い部分である。読み手としては、水岱の弟弟子であり卑劣な花鉄幹(かてっかん)と極悪人の血刀老祖との闘いでは、思わず血刀老祖の方を応援してしまうのである。

ここに至るまで、狄雲はヒーローらしい力を発揮することもなく、逆に逃避行中に血統老祖と同じ法衣をまとうはめになったことから、極悪人の僧と間違われ、水笙からは蔑まされる羽目になる。しかし、そんな狄雲も血刀老祖に首を絞められ殺されそうになったとき、獄中で鍛錬しても身につかなかった『神照経』が、首を絞められ内功の気が体内に巡り、2つの気脈が通ったおかげで開花する。

そして、ここから狄雲の復讐と新しい愛がはじまり、『連城訣』に記された宝物の発見により、宝に目のくらんだすべての悪人は滅び去ってしまうのであった。

何はともあれ、この『連城訣』という作品を面白くさせているのは、血刀老祖という極悪人のチベット僧であろう。たやすく人を殺してしまう割には、どうでもいいような狄雲を弟子扱いにして剣法を伝授したり、狄雲の危難を救ったり、時には食糧難になると狄雲を殺して食べようとしたりと、今までの金庸の作品には登場しない、ある意味で愛すべきキャラクターなのではなかろうか。

この作品はCSチャンネル『NECO』で6月から放送されているらしい。BSで放送されそうもないので、またDVDを買うしかないらしい。

ちなみに私は今、金庸の最高傑作と呼び声の高い『笑傲江湖(しょうごうこうこ)』の文庫本第1巻を読んでいる。全7巻なので、月1巻の発刊ペースだと読み終わるのに今年いっぱいかかってしまうということになる。そんなに待っていられようか?

チャンネル『NECO』 http://www.necoweb.com/neco/sp/renjyo/

人物相関図 http://www.necoweb.com/neco/sp/renjyo/soukanzu.html 

登場人物 http://www.necoweb.com/neco/sp/renjyo/cast.html