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羅生門 (1950)

監督 ................  黒澤明
撮影 ................  宮川一夫
配役    
多襄丸 ................  三船敏郎
真砂(まさご) ................  京マチ子
金沢武弘 ................  森雅之
杣売 ................  志村喬

ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、黒澤明監督が世界的に有名になるきっかけとなった映画。宮川一夫の撮影による、モノクロの光と影の美しい傑作です。

原作は芥川龍之介「藪の中」。野盗多襄丸(三船敏郎)による、武士 金沢武弘(森雅之)の妻 真砂(京マチ子)の強姦事件と、武士の死。武士の死について語る四人の証言が全て違っており、真実はわからないまま、というのが大まかな粗筋です。映画ですから、それぞれの証言は映像化されていて、4つのパラレルワールドが出現・・・。

野盗多襄丸が夫婦連れの美しい妻を目にとめ、これを我が物にしようとします。これが発端。そして夫の武士を騙して捕らえます。・・・武士(森さん)は縛られて野盗(三船さん)に妻(京さん)を強姦されてしますが、ただじっと耐えています。ここでの森さんの固い表情と目を伏せる様子だけで心の葛藤がわかります。その様子がたいへん色っぽくもあります。さて、ここまでは、どの証言も同じですが、その後が違ってきます。

第一の証言は、多襄丸。(三船敏郎って、晩年しか知らなかったけど、この映画で開眼しました。若いミフネ、なんてカッコイイんでしょう。スピード感があって荒々しいのに繊細さもある。いい男ー。そしてイヤラシサは微塵もなく、明るい。)
ここでの武士は、多襄丸と勇敢に戦います。京マチ子さん扮する真砂が、二人の男を知った状態は恥だから、どちらか勝って生き残った方と添う、といったためです。リアルな立ち廻りが新鮮でしたが、森さんの立ち廻りが上手いのかどうかは、私は判断不可。どうなんでしょう?

第二の証言は、真砂。真砂は、野盗が去ったあと、夫の怒りでも悲しみでもなく、ただ軽蔑した冷ややかな視線に耐えられなかった、そのため夫を刺し殺した、と証言します。ここでの、森雅之の、眼。いろいろなところで言われていますが、本当に冷ややかな軽蔑した眼が、すごい。”そんな眼で私を見ないで!”と京さんが叫びますが、私も叫びたくなります。この森雅之の眼差しで見られた日には、絶対耐えられない・・・。この眼があってこそ、第二の証言があり得ないことでない、と思わされます。最初の方で馬上の妻に笑いかける武士(森さん)のシーンがあって、それが美しく気高い妻を誇りに思うような無邪気なものなので、武士の心の中のすさまじい変化が見て取れます。

第三の証言は、殺された武士(森さん)が霊媒師を介して証言。妻真砂が野盗多襄丸に「こうなったからには、おれの妻になれ」(セリフは不正確)と言われるとうっとりと多襄丸見上げ、その顔が今まで見た最も美しい妻の顔だったと語ります。更に真砂が多襄丸に、二人の男に恥をさらしたくないので「(夫を指差して)あの人を、殺してください」と言ったというのです。妻の仕打ちにショックを受ける武士。結局は自ら命を絶ちます。
ここでの森さんは、妻に裏切られた夫の弱い面を演じています。一人になり堪えきれず涙を流し、立ちあがり、ふらふらと歩き、木に腕をついて声を殺して泣く。この一連の演技、DVDの副音声解説で森さんのこの当りの演技なんか上手い、と言ってましたが、本当にそう。大げさになりがちな所を押さえて、でも悲しみがはっきり伝わります。(それにしても泣くのが似合う森さん、かわいい・・・。)

第四は、杣売(志村喬)が羅生門で語る目撃談。(第三者談なのでこれが真実かと思いきや、彼は真砂の小刀を盗んだのが発覚しないよう詮議の場ではウソをついていたことが発覚。彼の証言も真実だとは言いきれません。) ここでは、森さん演ずる武士は、卑小な面をみせています。「こんな女のために、命を投げ出すのはごめんだ。こんな女くれてやる。」と妻真砂をめぐる多襄丸との戦いに、逃げ腰。結局は真砂に焚きつけられ武士と多襄丸が戦いますが、それが超かっこわるい立ち廻り。ちょっと刃をかわしただけで二人とも後にさあーっと逃げて行ったり。臆病さがでていて面白かったです。ここでは結局、多襄丸に殺されてしまいます。

森さんだけでなく、三船敏郎さんも京マチ子さんも、4つの証言それぞれで、一人の人間の違った面を演じ分けていて、本当にすばらしいです。その中で森さんに注目するとすれば、やはりあの、第二の証言の、冷たい眼でしょうか。

「白痴」もそうですが、この「羅生門」のように写実でなく心の中の世界を具現化したような映画の森さん、個人的にとても好きです。

(2003/1/23)